大村波彦
大村波彦
先行に不安を感じながらも、浮草のような暮らしを続ける尺八奏者の生活をドキュメンタリー・タッチで綴った作品。監督は89年の「グッドバイ(1989)」以来、4年ぶりにメガホンを取った加藤哲。93年度トリノ国際映画祭審査員特別賞受賞。16ミリ。
ライヴにジョイントしては尺八を吹いている波彦は、アパートの家賃も払えない極貧の生活を送っていた。ある日、姉の結婚式のために実家に戻った波彦は、周囲の説得もあって友人の叔父が経営する工場の職を紹介してもらうが、尺八を捨て切れない思いから後ろ髪をひかれつつも再び上京した。しかし、アパートからは締め出され、恋人も去って行ってしまい、どこも行くあてのなくなってしまった波彦は、尺八一本を手に東京のあちこちをさまよい歩くのだった。所持金も底を尽きホームレス同然となった波彦だったが、彼にはまだ音楽という味方があった。ストリート・ミュージシャンとのセッション、そしてチンドン屋でのバイト。僅かな希望を胸に波彦は歩き続けるのだった。
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