当代一の人気女形、坂東玉三郎に、スイスの映画作家ダニエル・シュミットが独自のアプローチで迫るドキュメンタリー。玉三郎の舞台のほか、彼が年増の芸者に扮した、『黄昏芸者情話』という劇部分が組み込まれている。製作は「スモーク」の堀越謙三とマルセル・ホーン。撮影は「今宵かぎりは…」以来シュミットの全作品を手掛ける名手レナート・ベルタ。録音のディーター・マイヤー、編集のダニエラ・ローデラーもシュミット作品の常連。共演は坂東弥十郎、「午後の遺言状」の杉村春子、日本舞踊の武原はん、舞踏家の大野一雄、玉三郎の監督・主演作品「天守物語」で共演した宍戸開、「写楽」の永澤俊矢など。また101歳になる現役最高齢の芸者蔦清小松朝じがインタビューを受けている。
ストーリー
熊本・八千代座。坂東玉三郎が『鷺娘』を舞う。続いて『大蛇』を踊るため舞台に向かう玉三郎。その姿を背広姿の玉三郎がみつめている。舞台が終わり、化粧を落とす玉三郎。四国・内子座。まず御祓いが粛々と行われ、続いて玉三郎は楽屋で化粧をし、《女》へと変身してゆく。大阪のホテルで女形が女を演ずることについて語る玉三郎。そして八千代座で坂東弥十郎の大伴黒主を相手に『積恋雪関扉』の黒染を演じる。カメラは玉三郎の早変わりや、まさかりの陰で関守から黒主に変身する弥十郎、それに二人の演技を後見する黒衣の動きを丹念に捉えていく。玉三郎は希有の天才女優として杉村春子や武原はんの名を挙げる。杉村と武原がそれぞれインタビューに答え、《女》を演ずること、舞うことの精神を語る。大野一雄が東京湾の水の上を軽やかに舞う。蔦清小松朝じが三味線を手に常磐津の一節を聞かせる。女と黄昏について語る玉三郎。劇『黄昏芸者情話』。夜の東京湾を走る屋形船で年増の芸者(玉三郎)と若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)が花札に興じている。やがて眼鏡をかけた青年(宍戸)と芸者は甲板に出て、接吻を交わす。その様子を見たもう一人の男(永澤)が青年に掴みかかり、芸者が慌てて間に割ってはいる。黄昏どきの芸者の家に電話がかかり、男からの電話に芸者は艶っぽく身悶えする。夜、明治風のたたずまいの街を芸者が歩き、青年が彼女の姿を求めて走る。再び『鷺娘』。そして大阪の街を行くリムジンに乗った玉三郎の姿が挿入される。『鷺娘』はクライマックスを迎え、玉三郎が大きく後ろにのけぞる。