ペトル・メイセル
Pivoine
快楽原則に憑かれた人々の密かな愉しみを、“ブラック・グロテスク”なタッチで描いた怪作。監督・脚本・製作・美術は「闇・光・闇」「ファウスト」のチェコの異端の映像作家ヤン・シュワンクマイエル。もともと70年に短編用として企画されたが、当時のチェコの検閲により実現できなかった。95年に短編として製作を開始し、結果的に長編として完成させた。実写と古典的なモデル・アニメーションとで構成され、独特のシュルレアリスム的な効果を生んでいる。監督自ら「特にサウンドトラックを重視した」と言う音楽はオルガ・イェリンコヴァーと「ベンヤメンタ学院」のブラザース・クエイ、録音はイヴォ・シュパリとゴダール作品で知られるフランソワ・ミュジー。96年国際映画祭ヤング審査員賞グランプリ。
プラハ。ピヴォイネ(ペトル・メイセル)はある日、クラの書店でポルノ雑誌を眺めるうちに興奮し、家へ帰ると服を脱ぐ。そこへ郵便配達婦のマールコヴァ(イジィ・ラーブス)が手紙を届けにやってきて、そこには「日曜日に」とだけ書かれていた。振り返ると、隣の部屋の中年女ロウバロヴァ(ガブリエラ・ヴィルヘルモヴァー)がその様子を盗み見ていた。彼は慌てて部屋に入り、手紙を燃やす。マールコヴァはピヴォイネのアパートの階段の陰で、小さなパンの固まりをいくつもこね始める。部屋を飛び出したピヴォイネは金物屋で黒い傘を買う。ふと見ると、先客のベルティンスキー(パヴェル・ノヴィ)が鍋蓋を掴んで鼻息を荒げている。クラは早々に店を閉め、テレビのアナウンサー、アナ(アナ・ヴェトリンスカー)にぎらぎらする目で見入っていたが、やがて昼間作りかけの複雑な装置を取り出した。ピヴォイネは鶏の首を切り、その血を風船に詰めた。それからロウバロヴァの部屋に忍び込むと、彼女のミシンで傘を縫い合わせて大きな翼を作り、彼女の服を盗んだ。部屋へ戻り、粘土で巨大な鶏の頭を作った。殺した鶏は大きなオーブンで焼いた。そして人形を縫った。マールコヴァは別のパンを買い、勤務中にせっせとこね続ける。ベルティンスキーは工事現場で刷毛を、スーパーで指サックを盗んだ。また、同じエレベーターに乗り合わせた女の毛皮の襟巻きを、剃刀で切り取ると、それらを手に帰宅し、人目を盗んで離れに逃げ込む。家の窓からその様子を見ているアナ。それに気づいたベルティンスキーはカーテンを閉め、アナは涙を流す。クラは真っ赤なマニキュアを塗ったマネキンの腕を機械に取り付け、リモコンで操れるようにした。ロウバロヴァは藁を集め、ロウソクを買った。アナは離れの様子を気にしながら、タライに水を張り、大きな鯉を飼い始めた。日曜日。ピヴォイネは街から離れた人気のない空き地へやって来た。ロウバロヴァそっくりの人形を椅子に縛り付け、怯える人形に向かい、容赦ない攻撃を開始した。その頃、ロウバロヴァは目に黒いマスクを付け、手には鞭を持って手縫い人形を地面に叩きつけている。顔を上げた人形はピヴォイネだった。人形は叩かれる度に服を脱ぎ、やがて全裸になった人形の布の肌が引き裂かれ、中から藁の肉が飛び出した。マールコヴァは洗面器いっぱいのパンの団子を鼻から吸い込む。ジョウゴで水を耳に流し込むと、満足げな表情を浮かべる。アナの元へマールコヴァが団子の入った小包を届ける。冷たい夫ベルティンスキーがベッドを出て行った後、アナは泣きながらタライの鯉にそのパンをやる。一方、離れのベルティンスキーは出来上がった器具の数々を駆使して体を愛撫し、悦ぶ。ロウバロヴァのプレイはピヴォイネ人形を殺して終わり、ピヴォイネもロウバロヴァの人形を殺して終えた。クラの装置も完成し、アナの唇をズーム・アップした画面に唇を這わせ、リモコン操作でマネキンの腕を動かす。タライの中の鯉がアナの指に吸い付く。総てが終わり、ピヴォイネは街に戻った。彼とすれ違ったマールコヴァは、鞄に詰めた薬を捨てた。ピヴォイネはクラの装置についての専門書を買う。ピヴォイネのアパートには刑事が来ていた。頭から血を流したロウバロヴァが担架で運ばれ、ロウバロヴァの部屋には大きな穴が空いており、床には岩が転がっている。そしてテーブルにはピヴォイネの供えたチキンが。クロゼットを調べていた刑事が振り返ると、ベルティンスキーがいた。その手にはロウバロヴァの黒猫と黒い傘。ピヴォイネが部屋に戻ると、室内にはロウソクが立てられた椅子一脚と、水を張ったタライが。服を脱ぎ、目を閉じるピヴォイネ。クロゼットがきしんだ音を立ててゆっくり開く…。
Pivoine
Loubalova
Malkova
Anna
Kula
Beltinski
監督、脚本、製作、美術
製作
撮影
音楽
音楽
編集
パペット・デザイン
録音
録音
アニメーション
アニメーション
[c]キネマ旬報社