荒牧亮子
荒牧亮子
死んだ自分自身についての幾つかの記憶と、親しい6人のインタビューで構成した極私的短篇。監督・脚本は「鎖骨の下の」の荒牧亮子。撮影を「鎖骨の下の」の岩井天志が担当している。尚、本作は特集上映『荒牧亮子の映画世界』の中で公開された。第8回ふくいビエンナーレ最優秀賞受賞作品。16ミリ。
12月10日、私は死んだ。だが、私には幾つか憶えていることがある。逃げた鳥を部屋中追いかけたこと、鎖骨の下にある傷とその傍らで揺れる南十字星のネックレスのこと、古い住所録を整理しながら顔さえ想い出せなくなった人たちとのことを思ったこと、ベルギーワッフルを食べている男とぶつかり鯛焼きを落としてしまったこと(その時、私は男を殺してやりたい衝動に駆られた)、蜂蜜の中で夢見心地で死んでいった蟻を眺めたこと、ピアノの下でペダルを踏む母の足を見たこと。来年の命日には何人かの愛しき人々が、そんな私との想い出を語ってくれるに違いない。
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