監督、製作、撮影、編集
一貫して台本・ナレーション・テロップ・音楽を使用せず、自ら“観察映画”と位置づける「精神」の想田和弘監督によるドキュメンタリー。監督の妻の実家に住みついた野良猫グループと突如現れた泥棒猫との確執や、かつて兵隊だった91歳の独居老人をボランティア同然で介護・支援する義父母の姿、その義父母自身にも迫る老いにカメラを向け、平和とは、共存とは、そしてそれらの条件とは何かを観客に問いかける2011年香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞作。岡山県岡山市。柏木寿夫は、養護学校を定年退職した後、障害者や高齢者を乗せる福祉車両を運転している。車椅子ユーザーのヒデちゃんと公園を散歩したり、実家に帰省していた安田さんを施設に送り届けたり、植月さんの買い物に付き添ったり、一緒に回転寿司を食べたり。その傍ら、寿夫は自宅の庭で地域の野良猫たちにエサをやり続けている。ところが最近、外部の“泥棒猫”がエサを目当てに庭へ侵入、にわかに猫社会の緊張が高まり、頭を悩ませている。寿夫の妻・柏木廣子は、高齢者や障害者の自宅にヘルパーを派遣するNPOを運営しているが、国の福祉予算の削減で苦しいやりくりを迫られている。しかも家では、夫の猫の餌付けのことで頭が痛い。廣子は週に一度、91歳になる橋本至郎の生活支援に出掛ける。橋本はネズミとダニだらけのアパートに一人暮らし。生活保護を受け、身寄りはなく、己の老いと死を見つめる日々を過ごしている。タバコを吸うのが唯一の楽しみだという。寿夫の車に乗って病院へ通う彼は「みなさんに迷惑をかけるから、早く往生せにゃあ」と口癖のように言う。そんな橋本には、戦争中に赤紙が来て、兵隊として徴集された過去があった。ある日、その記憶が突然よみがえる……。