監督
1959年の伊勢湾台風で多数の犠牲者を出したことをきっかけに発足した名古屋市南区の南医療生協。6万人にも及ぶ会員たちの自由な意見交換によって活気あふれる運営を行なっているこの組織の姿を通して、現代における地域社会のあり方を模索するドキュメンタリー。監督は「葦牙 あしかび こどもが拓く未来」の小池征人。
ストーリー
1959年の伊勢湾台風で5千人以上もの犠牲者を出した名古屋市南区。これをきっかけに、南医療生協が発足し、南区の本格的な地域医療活動が始まった。その後も続々と医療施設が増設されてゆき、35箇所を超えるまでになった。この南医療生協は、会員6万人を擁する巨大組織にもかかわらず、会員たちはモチベーションが高く、笑いと親切が満ち溢れ、それぞれ自分たちの言葉で自由に発言し、自己主張をする。会員ひとりひとりの顔が見えるのだ。その裏にあるのは、200名の理事研修会、会員と組織部の自由な発言のやり取り、1,000人会議の積み重ねによる全員参加の意思決定だった。このような全員参加の生活協同組合の形は、非効率で会員の責任や労力も必要になり、多くの組織がこれまで避けてきた形式。執行部が意思決定や運営を代行するのが一般的だが、執行部は次第に権力構造に移行してゆくのが世の常である。しかし、南医療生協は膨大な非効率を受け入れて、別の組織構造を模索していた。“みんなちがってみんないい ひとりひとりのいのち輝くまちづくり”というキャッチフレーズのもと、決して6万人の会員をひとつに束ねない。会員ひとりひとりの個性や精神の自由を尊重した姿勢が、“未来”や“可能性”を予感させる。最近、南医療生協の施設には“地域だんらん”という貼紙が掲げられている。それは、地域社会が崩壊している現代社会を横目に見ながら、会員たちが議論を重ねて生み出した言葉である。地域社会が崩壊したら生活協同組合そのものの存続もあり得ない。自分たちが率先して地域づくりに参加しよう。自分たちが考える地域づくりとは何か?実感できる地域の理想とは何か?……笑いと親切の行き先が“地域だんらん”なら、それは“だんらんにっぽん”に広がっていってほしい。この映画作りは、安住の未来を求める人々の壮大な夢、その具現の旅を追う映像の記録である。