酒井耕、濱口竜介監督による「なみのおと」、「なみのこえ (気仙沼、新地町)」に続く東北記録映画第3部となるドキュメンタリー。昔話、伝説、世間話といった地域固有の物語を伝える“民話”。前2作における“100年先への被災体験の伝承”という課題に対して、3人の語り手による東北地方伝承の民話語りから示唆を得る。
ストーリー
雪の降りしきるある日。宮城県栗駒山にある山荘で、栗原市の佐藤玲子、登米市の伊藤正子、利府市の佐々木健という3人の語り手と民話研究者の小野和子による民話の語り聞かせが行われる。農家の手助けをした猿に嫁入りに行った娘が残酷な結末をもたらす物語や、ひょんな事から鼠の巣穴に入った事で富を持ち帰る話など、方言の抑揚豊かな各々の語り手が順に民話を披露。その一方で、積極的な聞き手としての姿勢を示す小野和子が民話を考察。中盤以降は、各語り手の自宅で、彼らが民話の語り手となった所以や、幼い頃の情景などを織り交ぜながら一対一の語り聞かせが始まり、人々にとってそれが如何に大切なものであったかが明らかになる。後半は、季節の変わった栗駒荘で再び行われる“みやぎ民話の会”による語り聞かせを通して、民話が現在の人々に親しまれている様子が伝えられる。背景となった人々の暮らしの話とともに語られることで、その場に甦る先祖たちの声。語られる民話の背景に対する考察なども含め、十数話を収録。その価値は単に物語の意味内容を伝えるだけに留まらない。時に動物、鬼、もののけなどが登場する奇想天外な人物たちや突拍子のない展開は、彼らの先祖たちが厳しい暮らしや残酷な現実の中から作り出した“もう1つの世界”でもある。
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