ドロシー・マクガイア
Helen
「ブルックリン横町」「青春の宿」のドロシー・マクガイア、「愛の勝利(1939)」のジョージ・ブレント、「ミネソタの娘」のエセル・バリモアが主演するスリラーで、エセル・ライナ・ホワイトの小説からメル・ディネリが脚色し、「暗い鏡」「クリスマスの休暇」のロバート・シオドマクが監督しニコラス・ミュスラカが撮影したもの。助演は「運命の饗宴」のエルザ・ランチェスター、新人ロンダ・フレミング、ケント・スミス、ゴードン・オリヴァー、「ミネソタの娘」のライス・ウイリアムスら。ドア・シャーリー製作の1946年度作品である。
荒涼たるニュー・イングランドのある町の町はずれに古い館が立っている。不気味なこの邸の主はウォーレン夫人といって、永らく病床についたままだった。言葉の不自由な娘ヘレンが女中として雇われて来たのは1906年のことである。邸には老女主人の継子で生物学者のウォーレン教授とその女秘書ブランシュ、酒飲み家政婦オーツ夫人とその夫、看護婦のバーカー、最近欧州から帰って来たウォーレン夫人の息子スティーヴンが住んでいた。ヘレンは子供のころ火事になったわが家の中で両親が焼け死ぬのを目撃し、そのショックで声が出なくなっただけで、聴覚には何の異状もない。その症状に興味をひかれた若い町医者パリーは親切にヘレンの面倒をみているうちに、何時か興味が愛情に変わってゆくのを感じていた。ある日町のホテルで足の不自由な娘が殺された。この界隈では3度目の殺人で、奇妙なことに最初殺されたのが顔にきずのある娘、2度目は知的障害者の娘と、被害者は肉体的に障害のある娘達だ。しかも謎の犯人はようとして知れない。病床のウォーレン未亡人は、忠実なヘレンを娘のように可愛がっていたが、相次ぐ謎の殺人からろうあのヘレンが次の殺人の犠牲者になるような予感がして、即刻邸を立ち去れと勧める。しかしウォーレン教授は、殺人鬼が跳りようしている今ここを出てゆくのは危険だといってヘレンを引き止める。一方スティーヴンはブランシュと恋仲となったが、彼女は教授の激しい嫉妬を恐れて思い悩んだ。ある夜スティーヴンとウォーレンは激しく争った。それを知ったブランシュはスティーヴンと喧嘩し、永久にこの邸を立ち去ろうと決心し荷物をまとめに地下室に下りた。然し彼女の背後に憎悪に燃える2つの眼が光っていたのに気がつかなかった。やがて地下室に下りたヘレンは絞殺されたブランシュの死体を発見し、その場に姿を見せたスティーヴンを犯人と思った彼女はスティーヴンを欺して地下室に閉じ込めてしまった。豪雨と雷鳴のその夜、邸内には老未亡人が瀕死の床に横たわり、家政婦のオーツは台所で酔いつぶれ、その夫のオーツも町へ使いに出、看護婦のバーカーは未亡人と喧嘩して邸を出て行ってしまいヘレン1人残されたのである。身に迫る危険を感じつつ地下室を出たヘレンは未亡人の部屋へ急ごうと螺旋階段を上る途中でウォーレン教授に出会った。彼女は「ブランシュが殺された。犯人のスティーヴンを地下室に閉じ込めてある」と筆書して教授に示した。教授の眼は異様な光を帯び、この世界に不完全なものを容れる場所はないという。救いを求めることも出来ないろうあのヘレンは未亡人の部屋へ飛び込み、紙片に「拳銃は何処ですか?」と書いて示したが夫人は瀕死の昏睡に陷っていた。教授はヘレンを絞め殺そうと迫った。その時ドアにノックの音がした。警官の声だ。然しヘレンは殺人鬼を前にしながら叫び声を挙げ得ないのだ。警官は去り、逃げまどうヘレンを追って教授が螺旋階段を下りた時、銃を手にして階段によろめき出た瀕死の未亡人は殺人がすべて教授の仕業であることを知り怒りをこめて射殺すると、自分もそのまま倒れてしまった。スティーヴンの許へ駆けつけたヘレンは促されるままに医者のパリーへ電話をかけた「189番を願います!」何と声が出るではないか。喜びの涙と共にヘレンは受話器に力強く言った。「私です。ヘレンです!」
Helen
Prof_Warren
Mrs._Warren
Dr._Parry
Blanche
Steve_Warren
Maid
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