ブランシュ・スウィート
Anna_Christie
米国第一流の劇作家ユージーン・オニール氏の傑作「アンナ・クリスティ」を故トーマス・H・インス氏総監督の下に映画化されたもので、脚色はブラッドリー・キング氏が担当し「女性を讃えよ」「巨象怒れば」等と同じくジョン・グリフィス・レイ氏が監督し、「受難のテス」「快男子ソーヤー」等主演のブランシュ・スウィート嬢がアンナに扮し、アンナの父親クリスには舞台に於いて同じくジョージ・マリオット氏が扮し、活劇俳優ウィリアムス・ラッセル氏がマットを演じて最初の性格演出を見せユージェニー・ベッセラー嬢がマーサを演ずる。
クリスは長い海上生活をして兄弟や幼い息子達やを海に殺され、航海中陸に残した妻にも死なれ海を呪う男となったが他に職業を持たぬ身の詮方なく海の生活を続けた。しかし今は唯一人の身内たる娘のアンナだけは海の犠牲にしたくないと思って小児の頃からミネソタの遠縁の者に預けた。アンナは農家の苦役をして成人すると海の誘惑が彼女の血管に波打ち始めた。ふとした過ちから彼女は倫落の女となり激しい病気に罹った。快癒するとアンナはニューヨークに出て或る船乗り相手の酒場で15年振りに父親と再会した。かくてアンナは父の荷揚船に住むこととなった。しかしアンナは自分の醜い過去を父に打ち明けなかった。船を失ったアイルランドの水夫マットが一緒に父の船で生活するようになって、二人はお互いに愛を感じた。クリスは娘は決して船乗りの嫁にはせぬと言う。アンナは男を愛する故に己が過去を恥じて何事も語らずには結婚できぬという。男は父が承知せぬ為と早合点し遂にクリスと争いを始め果ては何れかの生命が危うくなった。アンナは二人の中に入り己が過去を物語った。クリスは絶望し、マットは誇りと愛と怒りとに悶えて去る。アンナは空しく待ったが男が帰って来ないので投身しようとするが、クリスに救われる。放逸と苦悶とに数日を過ごしたマットは愛の力によってアンナの許に帰って来る。
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