50代になったイーサン・ホークはもっといい!?作家・松久淳が語る『15年後のラブソング』
全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」&「月刊イオンエンターテイメントマガジン」で人気コラム「地球は男で回ってる when a man loves a man」を連載中の作家・松久淳。俳優イーサン・ホークをこよなく愛する彼が、6月12日(金)に公開される『15年後のラブソング』の見どころを語る!
『15年後のラブソング』は、『ピーターラビット』シリーズのローズ・バーン、『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホーク、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のクリス・オダウドが共演した大人のためのラブコメディ。イギリスの港町サンドクリフで博物館に勤めるアニーと、アメリカニュージャージー州の田舎町で暮らす伝説のミュージシャン、タッカー・クロウ。遠く離れた街で平凡な日々を送る2人の仲は、1通のメールを機に、アニーの恋人ダンカンも巻き込んだ奇妙な三角関係へと発展し…。
50代になったイーサンは、もっといいんじゃないかと予感させてくれる
響く人には響きまくって、でもピンとこない人にはそれほどでもない。そんな映画がたまにあると思うのです。
例えば、おヒューことヒュー・グラント主演というだけで私は無条件推しですが、『アバウト・ア・ボーイ』。
40歳も近いのに親の遺産で適当に暮らし、女を口説きまくりの主人公ウィル(いつものおヒュー…)。シングルマザーなら別れても恨まれないという不埒な目的で、自分もシングルファザーのフリをしてナンパ三昧。しかし、ある少年になつかれてしまい…という話。
例えば、ジョン・キューザックの『ハイ・フィディリティ』。
40歳近くの音楽オタクの中古レコード店店主が、自分のうまくいかなかった過去の恋愛を、店員ジャック・ブラックとのマニアックな音楽談義を挟みつつ、振り返るという話。
例えば、キャリー・マリガンの『17歳の肖像』。
優等生の少女が、大人の男によって様々な手ほどきをうけて成長していくシンデレラストーリー、のように見えて、その”大人の男”が実はたいしたことない(というかろくでなし)という、大人になるとみんなわかる一面もしっかり描いた話。
以上、私がこよなく愛する3本にピンとこない方もきっと多いんじゃないかと思います。この3本には実は共通点があって、すべてニック・ホーンビィという人の原作、もしくは脚本作なのです。
今回紹介する『15年後のラブソング』が、まさにそのニック・ホーンビィ原作で、これまた熱狂する人とそうでない人にわかれそうな、もちろん私は大好きな作品なのでした。
自分の人生はこれでよかったのかと惑いつつある、30代半ばのアニー。15年付き合った恋人は、表舞台から姿を消した伝説のロックシンガー、タッカー・クロウの超オタクで、アニーよりも、主宰してるクロウのファンサイトでの交流に夢中。ある日、喧嘩ついでにそのサイトにアニーがクロウの悪口を投稿すると、なんとクロウ本人から「君が正しい」と返事がきて…。
女にだらしない男、音楽オタク、幼い男の子との交流、現実への不安と不満、過去の後悔、大人になる自覚、ちょっとした成長と見つけるささやかな幸せ…と、これまでのニック・ホーンビィ作品らしさをちりばめつつ、本作はそんなアニーの平凡な日常が、クロウと知り合うことで変化していく様を描いていきます。
この元ロックミュージシャンでありながら、あちこちに子がどもがいて、仕事もせず元嫁のガレージを間借りして息子と暮らしてるダメ中年のタッカー・クロウ。そんな男を誰が演じるかといえば、ビジュアルを見ただけで納得のイーサン・ホークなのでした。
もうこのイーサン・ホークが良くて良くて。アニー(ローズ・バーン)もめちゃくちゃかわいらしいのですが、ずっとタッカー・クロウのダメっぷりを観ていたくなります。
しかも若くてかっこいい時のタッカー・クロウのポスターは、もちろん若くてかっこいい時のイーサン・ホークでばっちり流用できる強み。
『6才のボクが、大人になるまで。』などリチャード・リンクレイター作品の常連で、近年ポール・シュレイダー作品や是枝裕和監督作品にも出演、そして自身も小説を執筆し監督もするのに、いまだにまあまあな頻度で、B級アクションとかB級ホラーとかB級SFに出演してくれるイーサン・ホーク。信頼できます。
30年間、コンスタントにキャリアを重ねてきているそんなイーサン・ホークが、これからの50代が一番いいんじゃないかと予感させてくれるのが、この『15年後のラブソング』なのでした。
できればいろんな人が観てくれればいいなと思いつつ、アニーの恋人がタッカー・クロウに言い放つ、「作品は作者のためのものじゃない。あなたにはクソでも、僕には大事だった」という言葉が染みる、音楽(に限らずあらゆる文化)に救われてきた人は見逃さないよう、とりわけおすすめしておきます。
文/松久淳
■松久淳プロフィール
新刊「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と渓谷社)が発売中。旧作「天国の本屋」が、13年ぶりに再販決定。近刊に「きっと嫌われてしまうのに」(双葉社)、「もういっかい彼女」(小学館)などがある。