多様性を推し進めるアカデミー賞、新ルール導入で「#OscarSoWhite」からどう変わる?
9月8日、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは2024年に行われる第96回アカデミー賞の作品賞ノミネート資格に、より多様性を重視した表現・包括性の条件づけを行うことを発表した。それ以前の第94回から、アカデミーが定める包摂規準のチェックリストの提出が求められる。
作品賞のノミネート規準を満たすには、映像に現れるもの(テーマ、物語、主演・助演俳優など)、クリエイティブ(製作スタッフ)、有給インターンなどの雇用、配給・宣伝・マーケティングの4つのカテゴリーのうち2つ以上で、性別・人種・性的マイノリティ・障がい者の少数グループ(Underrepresented group)を含まなくてはならない。詳しくはアカデミー賞オフィシャルサイト内に記述されている。
この新基準は、映画芸術科学アカデミーが包摂性を高めるタスクフォースを形成し、英国アカデミー賞(BAFTA)でも適用されている英国映画協会の多様性規準をもとに、全米製作者組合(PGA)とも相談し決めたという。映画芸術科学アカデミー会長のデヴィッド・ルービンとCEOのドーン・ハドソンは、「アカデミーは、これらの新ルールを実現させるために重要な役割を果たすことを約束します。私たちは、これらの包摂性基準が、映画業界における長期的かつ本質的な変化のための触媒になると信じています」と声明を出している。
今年6月に映画芸術科学アカデミーが送付した新規会員候補への招待状は819通。候補者分布図は世界68か国にわたり、45%が女性、36%が有色人種、49%がアメリカ人以外だという。ちなみに2019年度は842名で、50%が女性、29%が有色人種, そして59か国にわたる国籍となっている。このように、アカデミーが多様性を重視するようになったのは、2012年にロサンゼルス・タイムズ紙が、アカデミー賞を選出しているメンバーの中央値は60歳以上の白人男性だという独自の調査結果を発表してから。その後、2015年度のアカデミー賞で主演賞・助演賞にノミネートされた20名の俳優全員が白人だったことから、「#OscarSoWhite」のハッシュタグが生まれ拡散した。
今年のアカデミー賞では、韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)が史上初の外国語作品による作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編賞の4冠を受賞する快挙を遂げ、オスカーの新時代が到来したことを感じさせた。だが一方で、2019年は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督)、『フェアウェル』(ルル・ワン監督)、『ハスラーズ』(ロレーヌ・スカファリア監督)、『幸せへのまわり道』(マリエル・ヘラー監督)など、女性監督の活躍が目覚ましい年だったのにも関わらず、監督賞にノミネートされたのすべて男性監督だった。ノミネーションを発表した俳優のイッサ・レイが皮肉を込めて、「ノミネートされた男性たち、おめでとうございます」とコメントしたことも印象的だった。
パンデミックにより授賞式日時が延期され、選考基準も大幅に変更された2021年のアカデミー賞。そして、この新ルール発表からは、多様性を受容する文化づくりに向けて映画業界全体の課題として取り組んでいくという積極的な姿勢が見て取れる。
文/平井伊都子