「PFFアワード」表彰式に齊藤工&大森立嗣監督が登壇。グランプリ『へんしんっ!』ほか、審査員がコンペ作品にたっぷり講評
新人監督の登竜門として数々の映画監督を輩出し、今年で42回目を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル(略称:PFF)」。そのメインプログラムとなるコンペティション部門「PFFアワード」の表彰式が25日、東京の国立映画アーカイブにて開催され、入賞者17名と最終審査員の大森立嗣(映画監督/俳優)、齊藤工(俳優/映画監督)、樋口泰人(プロデューサー)、平松麻(画家)、古厩智之(映画監督)らが登壇。本作が初監督作品となった、石田智哉監督の『へんしんっ!』が、見事グランプリに輝いた。
9月12日より開幕した本映画祭。今年は新型コロナウィルス感染予防のため、劇場上映は定員数を約3分の1に制限し、オンライン上映も実施。新人監督の登竜門としてこれまで犬童一心、黒沢清、園子温、矢口史靖など140名を超えるプロの映画監督を輩出してきたコンペティション部門の「PFFアワード」では、今年は480本の応募があり、男性75%、女性25%と3年連続で女性比が20%を超え、その中から17作品が入選。表彰式ではグランプリほか各賞が発表され、各部門の受賞作品がすべて違うという本映画祭史上まれに見ない展開を見せた。
最終審査員の大森監督は、「僕は予選で2回落選しているので…」と自身も本映画祭に応募した過去を苦笑しつつ振り返り、「審査員はちょくちょくやっていますが、PFFは僕も応募したこともあり、いろんな想いがある。僕としてはやっとここにこれたなという感じです」と感慨深げ。
グランプリを受賞した『へんしんっ!』は、車椅子に乗った監督自身が障害者の表現活動の可能性を探ったドキュメンタリー作品。大森監督は「この作品はとにかく興奮しました。映画を作る楽しみが画面全体から伝わってくる感じがあった」と受賞した石田智哉監督に惜しみない賛辞をおくり、作品について「問われているのは、見ている観客じゃないかと思った。彼のことをどういう風に見つめればいいのか、ずっと自分と画面と会話しながら観ていましたが、彼が楽しむ姿が僕は本当に好きでした」と熱いメッセージ。
作品では、監督が映画製作を通じて様々な人と関わりあうなかで、多様な“違い”を発見していく。受賞した石田監督は、「映画を作ることでしか表せないことというか、自分が吐きだせないことがあるのかなと作っているなかで発見しました。作ってて楽しくて、自分らしい作品にすることができたのかなと思います。ありがとうございます」とスピーチし、会場から大きな拍手がおくられた。
また「準グランプリ」には、寺西涼監督(24歳)の『屋根裏の巳已己』が選ばれ、最終審査員を務めた齊藤はまずコンペ入選の17作品について「セレクションメンバーの方たちがこの17本の作品に想いをのせて、僕たちにバトンを渡してくれた。そこに順位をつけるという酷な作業だなと思いましたが、賞の位置づけみたいなものは、この審査員、コロナ禍での集団バイアスがかかっているような賞の決め方だったと思う」と回顧。「名前が呼ばれなかった方、選ばれなかった方も、ひとつの角度でしかないと思っていただけたら」と全員へ呼びかけた。
受賞した『屋根裏の巳已己』については、「映画は一目惚れパターンと、徐々に好きになるパターンがありますが、本作は完全なる一目惚れでした。視覚、聴覚、感覚を支配されるというか、いま世界中から配信系メディアを通じてサブスクリクションという、劇場が今後向き合っていかないといけない様式に問われつつあるなか、劇場でこの作品と対峙する意味みたいなものを考えた時に、すごくエネルギーを感じた」と絶賛。
齊藤のスピーチを受けて、受賞した寺西監督も「刺さってくれたのがうれしいです。監督としてスタート時点にギリギリに立てている状態ですが、この先も撮りたいので賞金の使い方も考えながら(笑)、おもしろい作品を作っていきたいです」と未来へ向けて語った。
また「審査員特別賞」は、守田悠人監督の『頭痛が痛い』、関麻衣子監督の『MOTHERS』、野村陽介監督の『未亡人』が受賞。「エンタテインメント賞(ホリプロ賞)」は千阪拓也監督の『こちら放送室よりトム少佐へ』、「映画ファン賞(ぴあニスト賞)」はhaiena監督の『LUGINSKY』、観客賞は稲田百音監督の『アスタースクールデイズ』が受賞した。
全作品を振り返り、大森監督は「“死”という分からないものをテーマにした作品が多かった」、また全体的に「レベルの高さを感じた」と総評。いっぽう齊藤は、「全体を通してとっても皆さん巧妙。それはスマートフォンで映像を作れたり、その技術の進化、それに対応する皆さんの柔軟性もあると思うんですけど、その巧妙さの陰に隠れてその人の人間性とかが実は隠れがち。滑らかな映像表現ではあるんですけど、同時に個性みたいなものが薄まってしまっているんじゃないかなと全体として思いました」と言及。あわせて最後には、「グランプリを取れなかった方も、大いなるきっかけを持ち帰って欲しい。ノミネートされなかったことも座標の点になる。フィルムメーカーとしての皆さんの時間を楽しみにしております」とエールをおくった。
なお、最終日である本日26日、14時から準グランプリ作品「屋根裏の巳已己(みいこ)」が、17時からグランプリ作品「へんしんっ!」が国立映画アーカイブで上映される。