生田斗真、トランスジェンダー役で芽生えた母性を語る
「この映画はきっと俳優としてのターニングポイントとなる」。生田斗真がそう思って気合十分に挑んだ主演映画『彼らが本気で編むときは、』がいよいよ2月25日(土)より公開される。メガホンをとったのはスローライフな映画『かもめ食堂』(06)や『めがね』(07)の荻上直子監督だが、今回はずいぶん毛色が違う。生田が荻上監督からオファーされた役はトランスジェンダーのリンコ。覚悟を決めて役作りをしたという生田を直撃した。
「荻上監督から『トランスジェンダーの役です』とオファーをいただいた時、来るところまで来たなと思いました。これまで漫画やアニメなどのいろんな役をやらせていただきましたが、遂に性別をも超えていくのかと。『一緒に仕事をしたい』と言われることはすごくうれしいことですし、『やらない』という選択肢はなかったけど、これは大変な作業になると思ってやっぱりたじろぎました」。
女性の監督と組むのも生田にとっては初めてのことだった。「すごく直感型で、良くなかったら絶対にOKは出さないから、何回もテイクを重ねるシーンがたくさんありました。理由を聞いても『何か伝わってこないんです』とスパッと言ってくれる。心が折れかけながらも、日々できるかぎりのことをやっていった感じです」。
生田が演じる心優しいリンコは、恋人のマキオ(桐谷健太)と平和に暮らしていた。そこにマキオの姪である孤独な少女トモ(柿原りんか)が転がり込んでくる。やがてリンコのなかで母性が目覚め、いろんな思いが駆け巡る。
生田と渡り合った子役・柿原りんかの生き生きとした存在感も素晴らしい。「すごい子を見つけてきたなと思いました。すごく動物的ですが、子役というよりも一人の女優さんとして彼女のことを尊敬していますし、とても楽しい魅力的な女の子でした。将来素敵な女優さんになると思います」。
リンコを演じていくなかで、生田自身にも不思議な母性が芽生えていったようだ。「トモがリンコの布団に入ってきておっぱいをもみもみし、トモを抱きしめるシーンがあるんですが、そこで胸がぎゅっと握られる感じがしました。いままで感じたことのない感覚で、これがいわゆる母性なのかと思いました。トモが可愛くて可愛くてしょうがない。本当にそういう気持ちにさせられましたね」。
俳優を生業としている生田は、違う価値観を受け入れることに寛容な方ではないかと自らを分析する。「本当にいろんな人との出会いがありますから。なかには変な人だなという人もいれば、すごくカッコいい!と思う人もいて、普通に生活していると出会えない人たちに会うことも多い人生だと思います。ゲイの友達やトランスジェンダーの女の子もいるし、そのなかにいると『普通って何?』と考えたりもします」。
では、生田自身は現場などで自身と対立するような存在に出くわした時、どう向き合っているのだろう?「最近はけっこう合わせることが多いですね。10代や20代の頃は頭でっかちで、自分を守ろうとして他の人のいろんな思いや意見をシャットアウトしていたような気もします。そこに限界を感じて、もっと人を知ろうとするようになったのかもしれない」。
リンコを演じてみて、生田は「優しさと強さはイコールだ」と改めて実感したそうだ。「リンコの優しさや温かさは、ある種強さであるし、その強さは悲しみから来ていたりすると思うんですが、すごくピュアだと思いました。本作はLGBTQが題材になっていますが、そのことについての生き辛さや弊害よりは、その一歩先にあること、人とどう接してどう社会で生きていくかということを問いかけています。そういう意味では、本当に良い作品に出会わせていただきました」。【取材・文/山崎伸子】