「誤解されることなくゲイの世界を知る機会に」『シャイニー・シュリンプス!』監督が語る、仲間たちとユーモアへの想い
LGBTQ+による世界最大のスポーツの祭典「ゲイゲームズ」への出場を目指す、ゲイの水球チーム“シャイニー・シュリンプス”の奮闘を描いた『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』(7月9日公開)。本作で監督と脚本を務めたセドリック・ル・ギャロ監督は、実在する“シャイニー・シュリンプス”のメンバーでもある。
「昔はゲイの友人が一人もいなかった。でもある日、女友達に勧められて“シャイニー・シュリンプス”のみんなに会ってみたら、とても和やかな雰囲気ですぐに気に入りました。何度も通っているうちに、いつの間にか試合にも出るようになったり、チームメイトとの間に絆が生まれました。お互いに長所や短所、性の悩みや身の回りのあれこれから、恋の悩みまでなんだって話すことができる。ありのままの私を受け入れてくれる彼らとの出会いで、人生が変わりました」。
本作の物語は、元オリンピックの銀メダリストである競泳選手のマチアスが、同性愛者への差別発言によって世界水泳への出場資格を失ってしまうところから幕を開ける。ふたたび資格を得ようとするマチアスに課されたのは、3か月後にクロアチアで開催される「ゲイゲームズ」を目指す水球チームのコーチになること。渋々ながら引き受けたマチアスだったが、“シャイニー・シュリンプス”のメンバーは皆個性が強く、チームはかなりの弱小。適当にやり過ごすことを考えながらも、大会を通して自分らしさを表現しようとする彼らに少しずつ心を開いていくのだ。
元々はテレビリポーターとしてキャリアをスタートさせたル・ギャロ監督。テレビのドキュメンタリー番組の監督や、俳優業などさまざまな活動をする傍ら、2012年に“シャイニー・シュリンプス”に参加。そこで出会ったチームメイトたち一人一人にドラマ性を見出した彼は、2015年にフランスのテレビ局で手掛けた短編ドラマシリーズの撮影の際に、プロデューサーのアエドゥアール・デュプレに本作のアイデアを話したという。「彼の目がキラッと輝いた。その瞬間に、私の長編映画デビュー作のテーマが決まったと確信しました」。
そして脚本の執筆作業を開始するのだが、当時まだ長編作品を手掛けたことがなかったル・ギャロ監督は、プロデューサーの紹介でコメディ映画の経験があるマキシム・ゴヴァールとタッグを組むことに。「インスピレーションはチームメイトから貰えたけれど、映画にするにはストーリーが必要でした。そこで私とマキシムがイメージしたのは、ゲイ嫌いのコーチとゲイの水球チームという正反対の世界に住む人間たちのぶつかり合いのドラマでした」と振り返る。
その上で特に注力したのは、登場人物たちのキャラクター性だったという。「実際のメンバーとはまったく同じというのは1人もいなくて、誰もが納得できるような典型的なキャラクターにしました。例えばセドリックは、家庭を持ちながら長年恋人がいるチームメイトを参考にしました。フレッドのように性別適合手術を受けた人はいないけど、エンターテイナー魂や情熱やファッションセンスはみんな持っている。それに全員に少しずつ私の要素も入れています。人生のいろいろな段階の私が、キャラクターの誰かに当てはまっていると思います」。
さらに「どのキャラクターも各自挑戦する課題を抱えている。みんなそれぞれの旅があって、挑戦がある」と語るル・ギャロ監督は、本作の根底に「“たとえ現実が厳しくとも、ユーモアが勝利する”」というテーマがあることを明かす。
「マチアスは競泳の世界チャンピオンを目指し、娘との関係を犠牲にしてもストイックで厳格な人生を歩んできた。一方で“シャイニー・シュリンプス”のメンバーはパーティーや大騒ぎやジョークが大好きだ。ユーモアは時に絶望を埋めてくれるし、自由への叫びでもある。そしてなにより、人生を明るくしてくれる。彼らのユーモア感覚は、お互いの気持ちが楽になるように手を貸してくれる」。
そして「もしかすると“シャイニー・シュリンプス”のメンバーを珍妙に感じる人もいるだろうし、共感する人もいるだろう。なかには『門外漢なこの世界のことをもうちょっと知りたい』と思う人もいるかもしれない。この映画では、より多くの人に誤解されることなくゲイの世界を知る機会にしてもらうことが一つの挑戦としてありました。なので観る人には、なにかしら感じてほしいと願っています」と、本作に込めた強い想いを語った。
構成・文/久保田 和馬