是枝裕和監督、初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』に手応え「自分自身も大好きな作品」

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是枝裕和監督、初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』に手応え「自分自身も大好きな作品」

『万引き家族』(18)の是枝裕和監督が、『パラサイト 半地下の家族』(19)のソン・ガンホを主演に迎えた最新作『ベイビー・ブローカー』(6月24日公開)の制作報告会イベントが韓国で開催。ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨンら韓国キャスト陣が登壇し、是枝監督も日本からリモート出演した。ソン・ガンホは「個人的に3年ぶりにこういう場で、是枝監督の新作と共にご挨拶できるようになり、うれしいです」と喜びを語った。

是枝監督にとっては初の韓国映画となった本作は、韓国の製作・俳優陣と長年温めてきたオリジナル企画ということで、是枝監督もモニター越しに「長年の夢が叶って、この日を迎えられたことをうれしく思います」と万感の想いを述べた。


【写真を見る】ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨンら豪華な韓国キャスト陣が登壇
【写真を見る】ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨンら豪華な韓国キャスト陣が登壇

5月17日(火)より開催される第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門への出品決定が決まった本作。2018年に『万引き家族』で最高賞のパルムドールを受賞している是枝監督だが「あの場所は何度行っても本当に緊張しますし、喜びでもありますし、この作品にとっては本当に最高のワールド・プレミアの場所に選んでいただいたなと思っています」と感無量の様子。

本作でカンヌ国際映画祭への参加が7回目となるソン・ガンホは「光栄なことに、すばらしい監督と役者さんたちのおかげでこのような結果になり、うれしいです。特に是枝監督の初めての韓国映画演出作ですし、こういうすばらしい役者さんたちと一緒に行けるようになり、とてもうれしく思います」とコメント。

赤ちゃんポストをきっかけに出会った赤ん坊の母親とベイビー・ブローカーの男たちに、彼らを追う刑事たちが織りなす旅路を描く本作。是枝監督は「赤ちゃんポストというのは日本にも存在していて、前から関心を持っていたんですが。韓国にも同じようなものがあると聞きまして。そこに預けられた1人の赤ちゃんを巡って、善意と悪意が絡まりながら、赤ん坊と一緒にいろんな思惑をもった人間たちが旅をしていく、という話にしたいと思って作った映画です」と解説。

ソン・ガンホは、是枝監督からのオファーについて「昔から是枝監督の作品世界のファンでしたし、尊敬する芸術家ですので、とても光栄でした。監督の映画を見ていると、冷たい話のなかに温かいヒューマニズムが描かれて終わる印象でしたが、この作品を経験したら、監督の冷徹な現実直視により、温かいストーリーの中でも、冷静な視線で社会を俯瞰している感じがして、とても感動しましたし、新しい挑戦でもありました」と初のコラボレーションに心を弾ませたよう。

『ベイビー・ブローカー』についてクロストーク
『ベイビー・ブローカー』についてクロストーク

さらに「日本の巨匠監督に対する先入観ですが、緻密で完璧に計算されたディレクションであるとよく耳にしてました。ところが、是枝監督は本当に自由にリラックスさせてくれて、限りなく役者たちの感性を尊重し、引き出してくれて、とても驚きました。もちろん監督のなかでは全てが整理されていると思いますが、現場では役者たちの話を聞きたがっていて、とても立派な形の作業でした」と感心しきりだった。

カン・ドンウォンは「映画化されるまでかなり時間がかかったんですが、やっと去年、撮影をすることになり、こうやって公開を控えていますね。感慨深いです」と述懐。本作が劇場公開映画への初出演となったイ・ジウンは「シナリオを読む前に、短編映画の撮影で共演したことのあるペ・ドゥナさんに電話をしたら、『とてもハマり役だ』と言ってくれました。好きな先輩からそう言われて、私も確信を持って台本を読んだ覚えがあります」とペ・ドゥナとのエピソードを披露。

是枝監督作『空気人形』(09)で主演を務め、本作にも出演しているペ・ドゥナについて是枝監督は「前回ご一緒したときに彼女のお芝居のすばらしさを痛感していたのですが、今作ではさらに研ぎ澄まされていました。ちょっとした台詞の間とか、振り向くタイミングのコントロールとか、あらゆる感情を表現してくる底力のようなものを感じました」と更に進化した彼女の魅力を明かした。

脚本を読んだときに涙を流したというイ・ジュヨンは「人物たちの感情をきちんと積み上げていくシナリオでした。監督の作品がとても好きで、この映画のなかに自分が存在できて光栄でした。そして、とても楽しくお仕事ができました」と心から喜んでいた。

ソン・ガンホは演じたベイビー・ブローカーのサンヒョン役について「カン・ドンウォンよりもっとカッコよく映りたいなと思いました(笑)。劇中ではちょっとカッコよく撮れたと思ったんですけど、今日の彼の衣装を見て、そういう期待はやめることにしました」と会場の笑いを取ると、カン・ドンウォンも「12年前に共演した『義兄弟』で実の兄弟のように演技の相性が良いと感じたので、今回も自然に演じることができました」と手応えを述べる。

是枝監督についてキャスト陣が絶賛
是枝監督についてキャスト陣が絶賛

また、是枝監督はソン・ガンホについて演技力や洞察力を絶賛し「演じる人物像のなかに、善も悪も両方入っていて、それがシーンや台詞によって微妙に入れ替わる。色が単色ではない人物描写っていうのが、とても深くて見事だなと。今回のサンヒョンの役も、悪人なのか、善人なのか、見ている人たちが探っていけるような、そういう人物描写にしたいなと思っていました」と演出意図について語った。

最後に是枝監督は「韓国映画界の宝物のような役者さんたちと、韓国映画界を代表するスタッフの方たちに集まっていただいて、自分自身も納得ができる大好きな作品になりましたし、カンヌ国際映画祭でのお披露目というすばらしいスタートを切ることができて、この後韓国での公開を控えて、韓国の映画ファンの方に作品を届けられることを本当にうれしく心待ちにしています」とあふれる想いを口にした。

ソン・ガンホも「是枝監督は、単純に国籍が異なる監督が韓国映画を撮ったということより、いまの時代を生きる私たち皆の人生について共感できるものを作れたことに意味があると思います。監督と同じ考えで、人生の価値と失っていくものを話せるという点では、国籍は関係ないですね。そのような意味のある時間をこういった場で報告できてワクワクしますし、監督を含め、すべての方々に感謝したいです」と締めくくった。

文/山崎伸子

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