アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第15回 研修見学
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第15回は『アイドル戦隊』の新メンバーたちと決起集会した都筑が、ほろよいのまま怪人出現現場に向かったのだが…。
ピンキー☆キャッチ 第15回
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!
都築は酔っていた。新たに迎える三人のメンバーと初の鳥貴族飲み会を大満喫し、コンビニ前で氷結二次会と洒落込んだのだ。東中野で怪人出現との報を受け、泥酔状態で『研修見学』に向かっていた。ギュウギュウになったタクシーの助手席から咲恵が尋ねた。
「都築さぁん、怪人って大きいんですかぁ?」
「そんなデカくないよぉ、人間くらい。なんなら人間としても小柄なほうだなあぁ」
「可愛いぃ、お友達になりらい」
顔を真っ赤に紅潮させた鏑木が続ける。
「僕らの時代はさぁ、怪人っていったら最後に巨大化したもんだけどなぁ。まあそうなったらいくらヒーローって言っても勝てないですよねえ都築さん」
「確かに。巨大ロボがないからなぁ、現実にはそんな予算も技術もないらあ」
「そん時はぁぁ、僕のギターでぇ、引っ叩くしかないっっっ!」
普段は大人しい三島も、酒の力でようやくバンドマンらしさが出てきた。
山手通り沿いのライフ東中野店前には遠巻きに野次馬が出来ていた。情報では巨大なハンマーのような両手で、アスファルトに穴を開けている怪人とのことだ。もう23時を過ぎていたが、ライフ東中野店は0時まで営業の店舗だ。仕事終わりでの買い出し客が戸惑ってしまう。忙しい企業戦士の足場を破壊する権利など誰にあるというのだ。
いつものように数人の警察官が規制線を張っており、少し離れた場所でタクシーを降りた。
「ねぇ都築さん。私思うんだけどぉ、なんで警察の人は一緒に戦わないのぉ?」
「前に話したけど、怪人は特殊なバリアで覆われてる。手伝いたくても近付けないんだ。銃を撃ってもはじかれちゃうから意味ないんだよぉ。そのバリアを無効にしてくれるプリズムパワーを帯びる事のできる体質なのが、あの子達と君らなんだよ」
都築が指差した先では鈴香と七海と理乃が横付けしたバンから飛び降りたところだった。怪人のハンマーを掻い潜り、攻撃のタイミングをはかっている。
「まあ見てて。あの感じなら多分3分くらいで決着がつくんじゃないかなあ」
都築のいう通り素早い波状攻撃で怪人を翻弄すると、フィニッシュであるピンキー☆クラッシュの隊列を組んだ。怪人は最後の足掻きであるかのように大きくハンマーを振りかぶった、その時だった。デリバリーボックスを背負った自転車の配達員が規制線を無視し、強引に戦闘場に入り込んできた。このままではハンマーの餌食になってしまう。群衆からあっと声が上がった瞬間、七海が身を挺して二人の間に入り込んだ。
グシャッッッ
30mは離れていたであろう都築達の耳にも、鈍く嫌な音が届いた。七海の身体がくの字に曲がり、その場にドサリと倒れ込んだ。現場全体の空気がキンと停止し、誰も声を発せずにいた。さらに追い討ちをかけようと再び振りかざしたハンマーに理乃が咄嗟に掴みかかり、なんとか引き留めている。
都築は全身から血の気が引くのを感じた。「関係者だ!」と乱暴に規制線をくぐると、七海を抱き抱えて場を離れた。腕の中で呼吸をしている気配を感じ、まずは胸を撫で下ろした。警察官から救急車を要請したとの報告を聞き、改めて怪我の具合を確認した。程度こそ分からないが、左腕と左半身の肋骨の数本は激しく折れていると見て間違いないだろう。腕は広範囲で、赤黒くとも青黒くともいえる不気味な色で腫れていた。
「七海聞こえるか!!?七海!!?」
耳元で問いかけるも苦しそうにうめくだけだ。外傷なのか、はたまた内臓を損傷してしまったのか、おびただしく流れる鼻血が気になる。
ふと観衆が再び「あっ!!」と声を上げた。向こうでは理乃が怪人から振り解かれ、鈴香がすんでのところで攻撃から逃れている。三人が揃わない今、フィニッシュを撃つパワーが足りていない。武器はあれど単純な腕力で考えてしまえば同年代の女子とさほど変わらず、フォーメーションが混乱した今、体力も削られていくばかりだ。
都築は七海の手首に巻かれているパワーアンクルを外すと、自身の手首に巻きつけた。プリズムパワーが練り込まれた素材で、適応力のない体質の者が不用意に着用すれば命の危険すらある。しかし今は緊急事態だ、自分が代わるより他はない。
「救護者を頼む!」
咲恵と警察にそう告げて駆け出すも、ふと意識が飛びかけ、足がもつれて倒れ込んだ。プリズムパワーの副作用だ。怪人の未知なるバリアを消し去るほどに強力なパワーだ。データ以上の拒否反応を都築は感じた。
「都築さん!」
背後から鏑木と三島に抱きかかえられ、アンクルを外された。目眩と共に、後頭部の芯がバットで殴られたかのように痛む。一瞬でもこれなのだ、装着し続けることなど到底不可能だ。その場に座らせてもらうと、三島が自分の手首にアンクルを巻き始めた。
「・・・駄目だ三島君!・・・・急には無理だ!!」
「緊急事態ですからぁ、誰かが行かないと」
「三島君貸して下さい、僕が行きますから!」
「鏑木さんは次に控えておいて下さい。こういう時は若者が先陣切らないとぉ。都築さん、ちょっと研修してきますよ!!」
強い眼差しを向け、三島は勢いよく駆け出した。そして千鳥足のまま横の植樹帯の中に突っ込んでいった。
あまりの勢いに都築は「カハァ!」と吹き出したが、慌てて笑いを噛み殺した。この危機的状況下での緊張と緩和、フリからのオチが完璧すぎる。しかし痛む後頭部で我に返った。
鏑木に植木から引き上げられた三島は、頭に葉っぱをつけてへたりこんでいる。プリズムパワーに体質が合うとはいえ、アルコールで酔った状態のデータまでは計算していなかった。
「都築さん僕が行ってきます」
鏑木がおもむろに立ち上がり、三島のパワーアンクルを自分に付け替えた。
「でも鏑木さんも酔ってるから・・・。そのパワーとアルコールの作用が混ざった場合のデータがまだ無いんです。すごく危険かもしれない」
「じゃあ僕でデータが取れるじゃないですか。それにチェイサーで薄めてますから大丈夫です」
「そうは言っても・・・」
不安要素はありつつも、あちらに目を向けると変わらず理乃と鈴香は追い込まれている。自分もこんな状態の今、鏑木を頼るしかないのかもしれない。
黒シャツに濃紺の細身のデニム。そこへシルバーのパワーアンクルを巻くと、ベテランのアニソン歌手のような出立になった。
「では・・危険を感じたらすぐに逃げて下さい。体調もおかしかったらすぐアンクルを外して下さい」
「大丈夫です!では行ってきます! ・・・トゥ」
都築は聞き逃さなかった。走り出す際、鏑木は小さな小さな声で『トゥ』と言った。幼い頃からヒーローに憧れていた中年がここへきて夢が叶ったのだ、舞い上がるなという方が無理がある。しかしこの大ピンチに対応し切れる能力を持っているのだろうか?大袈裟に手足を上げたフォームで走る鏑木の背中を、到着した救急車の赤灯が真紅に染めた。
「救急車をもう一台・・ 一応、待機させておいて下さい」
都築は警察に要請し、謎のポージングを取り始めた中年の背中を見守った。
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。