パク・チャヌク監督、『別れる決心』に仕掛けた謎について回答「愛は大きなミステリー」
パク・チャヌク監督が第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した『別れる決心』(2023年2月17日公開)を引っさげて来日を果たし、12月27日にスペースFS汐留で開催されたティーチインイベントに出席。いち早く本作を鑑賞したファンからの質問に答えた。
本作は、『オールド・ボーイ』(03)や『お嬢さん』(16)のパク・チャヌク監督による6年ぶりの最新作。岩山の頂から転落した男の事件を追うへジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻で事件の容疑者でもあるソレ(タン・ウェイ)が、捜査が進むなかで距離を縮めていく姿を描くサスペンスロマンスだ。前作『お嬢さん』以来5年10か月ぶりの来日となったチャヌク監督は、万雷の拍手に迎えられてステージに上がった。
上映後の観客からは続々と手があがり、映画の感想と共に鋭い質問が投げかけられたこの日。心揺さぶる愛を描くために、チャヌク監督があらゆるアイデアを込めていることが明らかになった。愛の物語をミステリーという枠組みで描くことに定評があるチャヌク監督だが、「この2つには、よく似合う要素がある」と口火を切り、「愛というものは、大きなミステリーだと思う。どうしてあの男性、あの女性になぜ惹かれるんだろうかということは、口では言い表せられないほどの大きな謎。ミステリーという形式において、ロマンスを融合させるのはとても符号することだと思う」と持論を語る。
『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』などこれまで暴力的で官能的な作品を手がけてきたこともあり、「今回、ロマンチックなラブストーリーを描いた理由は?」との質問があがると、チャヌク監督は「私がこれまでつくってきた作品も、ロマン主義的なラブストーリーだと言えます」と回答。「これまでは、暴力的なシーン、エロティシズムを感じるシーンが印象的だったために、深いところで描かれている愛の話がなかなか見えてこなかったかもしれません。今回は、より直接的に愛のストーリーを描きたかった。つまり新しく、愛のストーリーを映画にしたわけではなく、いままで入れてきた要素を“入れなかった”というだけ」と一貫して描いてきたのは愛の物語だと話した。
へジュンとソレの愛を描くうえでは“言葉の壁”も重要な要素となるが、「中国語と韓国語のやりとりがもどかしくもあり、セクシーだった。どのような作用を期待していたのか?」との質問もあった。チャヌク監督は「愛を成就させるために、厚い壁や厳しい条件があればあるほど、よりドラマチックになると思いませんか?そういう意味で、私は言葉の壁を活用せずにはいられませんでした」とにっこり。映画を鑑賞する観客にとっても、登場人物同士の言葉がうまく通じないことはもどかしくも感じられることを認めながら、「それをむしろ、逆に効果的に使おうと思いました。劇中のへジュンと観客の皆さんの両方を、もどかしい気持ちにさせたかった。ソレが熱弁をすると、なにを言っているんだろうかと気になって、早くその内容を知りたくなったはず」とソレに注目を集める、ひとつの手段にもなったという。
また「スマートフォンやスマートウォッチなど、ハイテクなデバイスが効果的に使われている。その意図は?」と聞かれると、チャヌク監督自身はアナログなアイテムが好きだと話しつつも、現代においてスマホやタブレットは誰にとっても身近なアイテムになっているため、現代を生きる人に共感してもらう物語をつくるためには必要なアイテムだと話す。さらにデジタル機器が物語に登場すると「冷たい印象を与えると感じる人もいるかもしれない」と切りだし、「必ずしもそんなことはないと思う。現代人にとってスマホは、いまや身体の一部になっている。スマホでメッセージを送ったら、相手もいまそれを読んでいる途中だと感じることができる。機械的な冷たさではなく、相手の手を握っているような感覚にもなると思う」と思考を深めるうちに、現代人にとってはデジタル機器もロマンチックなアイテムだと考えるようになった様子だ。
どんな質問にも、ユーモアを交えた知的な回答で会場を喜ばせていたチャヌク監督。「本作を観た観客の皆さんは『2回以上観ると、さらにおもしろい』と言ってくれています。『1回目はへジュン、2回目はソレの観点から見直してみると、また別の楽しみ方がわかる』と言われています」とお茶目にアピール。「そういった口コミが広がっていることを、お伝えしておきます」と笑顔を見せていた。
取材・文/成田おり枝