アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第17回 長官

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第17回 長官

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第17回は『アイドル戦隊』の新メンバー鏑木さんの活躍により怪人を倒したのだが独自の世界観を持っており…。

イラスト/Koto Nakajo

ピンキー☆キャッチ 第17回 長官

「・・鏑木さん、大丈夫でしたか?」
「ああ長官・・・手強い敵でしたが、何とか」

突然の長官呼びにハッとしたが、気分が良くないと言えば嘘になる。とりあえず都築は『長官』を受け入れた。

「とりあえず人の目が多いので車に乗り込みましょう、そこに停まってるので」

興奮した野次馬は携帯を出してこちらに向けて一斉に撮影を始めている。大きな一眼を構えているのはマスコミかもしれない。しかしアンクルから放たれるパワーが作用し、写真や動画を撮っても白い光が滲むだけで個人の特定は出来ない。とはいえこの場は素早く立ち去りたい。

「理乃と鈴香も、詳しくは車の中で話すから乗ってくれ」
「はい」
「うん、分かった」

都築はすっかり酔い潰れたままの三島を抱えると警察官に目配せをし、暗に後処理を頼んだ。すると鏑木が顔を近付けて声をひそめた。

「都築さん、この先の早稲田通りを新宿方面に右折しますよね?」
「・・・ええはい、ここからだとそうですね」
「僕・・この場は走り去りたいんで、曲がった辺りで拾ってもらっていいですか?」
「え? いやどうして!?」
「いえさすがにね、この流れでアルファードに乗り込むのは観衆の興が醒めちゃうと思うんですよね、じゃあお願いします」
「あ、ちょっと鏑木さん・・」
「・・・・長官、では僕はここで。またお会いするかもしれませんね」

姿勢を伸ばし、野次馬達の目を大いに気にしつつ都築に語りかけると、鏑木は警戒線を華麗に飛び越えて走り去った。その際、群衆の中にいた子供の頭を撫で忘れなかったのは流石といえよう。少し遅れて車は早稲田通りに入り、汗だくでへたばる鏑木を拾って走り出した。七海に付き添った咲恵から『とりあえず命に別状なし』との連絡が入り、一同はホッと胸を撫で下ろした。

「理乃、鈴香。改めてこちら鏑木さんと、寝ちゃってるけど三島君。もう一人の咲恵ちゃんは七海に付き添ってくれてるから後ほど。前にもチラッと話したけど、みんなの休みや緊急事態にも対応出来る様に別働隊を作ったんだ。実戦はまだのはずが今日は急にこんな事になっちゃったけれども」

「へえ・・。鏑・・木さん?ってほんまに実戦経験ないの?めちゃくちゃベテラン感あったやん」
「ハハ・・戦隊モノがずっと好きだっただけで実戦は無いなあ」
「でも何か凄かったです!戦ってるって感じがしたもん。盛り上がりも凄かったし、ヒーローっぽかった!」
「どうもありがとう。日本の戦隊モノはとっても優秀な作りで出来てるんだ。どこにでもいそうな人間が突然使命を帯び、地球のために戦う。それぞれの個性でカラー分けをし、その個が一体となった時に大きな力を発揮する。このモデルケースは海外でも大ウケして、近年では『パワーレンジャー』って名前で大人気になってるんだよ。他にも優れた演出方法がいくつかあるんだけど、まずはヒーローにピンチが訪れること。そして中だるみし始める頃に敵か味方か分からない謎の人物を投入する。今回はその要素が偶然にも混ざり合ったんだ。図らずも僕がミステリアスキャラに見てもらえたってところかな」

鏑木は少年のように目を輝かせながら一気に語った。今回の手柄は自分のものではなく、優秀な日本の戦隊ヒーローがつくり上げたプロットのおかげだと締め括った。理乃と鈴香は感心しながらウンウンと大きく頷いている。

「なあ都築さん、私らの移動もヘリとかにならんの?」
「ヘリってお前・・・。学校や寮から現場に向かう時だって多いんだから」
「だけどヒーローがミニバンで駆けつけてミニバンで去っていくのは私も違和感あると思ってた」
「ヒーローの雰囲気もわかるけど、日本のミニバンはめちゃくちゃ優秀なんだぞ」
「それは分かっとるけどさ、怪人倒してみんなに注目されてる中でスライドドア開けて閉まるまでの時間が間抜けやんか。ウィーンって」

目を閉じ、腕を組んでいた鏑木が手をパンと叩いた。

「都築さん・・・・  ジープだ。ジープはどうでしょうかね?都内の交通事情も汲んだ上で、登場退場でヒーローの雰囲気を壊さない、かつ手軽な移動手段。荷台をオープンにすれば飛び降りても飛び乗っても戦隊モノっぽい絵になるし」
「ええやんジープ!都築さんジープにしようや!!川も渡れるやんな!!」
「ピンクに色塗らない? ラメとかストーン貼ってもいいよね!?」

少々図に乗り始めた新人中年の方は見ず、敢えて女子二人の方だけを凝視し、都築は低い声で答えた。

「着替えがあるだろ」

冷た過ぎるくらいに冷たく言い放ち、一瞬にして座を収めた。日本が世界に誇るミニバンは、七海が運ばれた総合病院へ向かう坂道を登っていった。角度のキツい坂道を、それはそれは軽やかに。


(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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