「第4回大島渚賞」受賞の山崎樹一郎監督、「決して急がずゆっくりと映画と向き合っていく」
2019年にPFF(ぴあフィルムフェスティバル)が創設した「大島渚賞」の第4回目の授賞式が3月14日に都内で行われ、受賞した『やまぶき』(公開中)の山崎樹一郎監督らが登壇。審査員を務めた黒沢清監督は、「まさにこの賞にふさわしい作品」だと本作を絶賛し、また若い映画監督たちへ向け「みなさんには失敗する自由がある。人間の外側にある、簡単にはカメラに映らないところを引きずりだすことに果敢にチャレンジしていってください」と呼びかけた。
新しい才能を持った若い次世代の監督に贈られる同賞。日本で活躍し、前年に発表された作品がある映画監督が対象となっており、映画監督の黒沢清、PFFディレクターの荒木啓子が審査員を務めている。なお審査員長の坂本龍一は現在療養中のため、今回の審査には参加していない。この日の授賞式には『やまぶき』出演キャストのカン・ユンス、川瀬陽太、和田光沙、黒住尚生、また大島渚の次男でドキュメンタリー監督である大島新らも登壇した。
岡山県真庭市を拠点に、農業に携わりながら地方に生きる人々に焦点を当て独自の映画製作を続ける山崎監督。今回の対象作品となった『やまぶき』は長編3作目となり、フランスの製作会社と共同製作を行い、1993年に創設されて以来の日本映画史上初となるカンヌ国際映画祭ACID部門、ロッテルダム国際映画祭など14の海外映画祭で招待上映されている。
現在フランスにて撮影中でビデオメッセージでの登場となった審査員の黒沢清監督は、「総評というよりも、日本の若い映画監督の方々へ向けてのメッセージ」だと前置きしつつ、「どなたも本当に人間を描くことに長けていて、舌を巻くばかりです。これは近年の日本の若い映画監督の人たちが世界に誇るべき長所だと思っていてすばらしいこと。そのなかに『大島渚賞』にふさわしい作品があるだろうかと毎年目を凝らしますが、残念ながら滅多にお目にかかることがないというのが現状」だと吐露。
「目の前にいる人間に対しては、並々なら関心と深い洞察力を持って把握することのできる日本の若い映画監督の方たちも、その人間を取り巻く社会に本気で目を向けることは、なぜか避ける傾向にある。ここが毎年一番はがゆいところです」と話し、しかし「それは仕方のないことなのかもしれません。社会は人と違ってカメラを向ければ映るというものではありません。また、的確に演出しさえすればそれが浮かび上がるというものでもないからです。つまり社会というものは、どうも人間ほど簡単には描くことができないということ」だと語りかける。
そして「それを描くには、おそらく深く熟考し、構想を練り、気持ちのいい人間描写の裏に隠された無知からくる思い込みや古い因習、気づかないうちに行使されている差別などを、露わにすることから始めなければなりません。僕にもそんなことは、なかなか簡単にできない。誰もが大島渚に簡単になれるわけではありませんからね。しかし若い皆さんには失敗する自由があります。完璧などを目指さず、非難されることを恐れず、果敢に人間の外側にある、そう簡単にはカメラに映らないところを引きずりだすことにチャレンジしていってください」と呼びかける。
続けて、「皆さんも実はとっくに知っているでしょうけれども、日本はそんなに平穏な国ではありません。そこに踏み込むのは面倒だし、失敗しそうな気配を感じてしまうのはよくわかりますが、せっかく映画作りの技量を鍛えられたんですから、それを鋭い刃物のように使ってみることを切望しております。そしてそのような映画の誕生を祝福することが、この『大島渚賞』の使命だと感じております」と訴えた。
そんななか、今年は一作品だけ同賞にふさわしい作品があったとし、『やまぶき』について「一本でもあったことがなによりの収穫。この作品は日本の地方都市に住む人々の様子が描かれ、そこで生きている人々があちらこちらで社会の角みたいなものにぶつかりまくる映画。そんな彼らがあちこちぶつかっていくさまは、まさに日本がこういう状況なんだと迷走している様子が描かれているのかなと感じた。この賞にふさわしいでしょう」と受賞を称えた。
また、同じく審査を務めたPFFディレクターの荒木は、トロフィーに刻まれた大島渚の座右の銘である歌人の明石海人の言葉「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」という歌を再度読み上げ、「私たちここにいる全員が、この言葉のもと光を発する人、そして自らの光を発する人として、映画を作り産む人を応援していかなくちゃいけないということを改めて思う言葉です。みなさん、もっと光を発していきましょう。山崎さん、これからももっと光を発してください!」と期待を込めた。
続いて登壇した大島新監督は、自身が『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20)を監督した際に母親に「本当にあなたは遅咲きね」と言われたエピソードを笑顔で明かしつつ、「大島渚は異次元のクリエイター。真似ができるものではなく、映像作家として自分が比較して考えたことがない。黒沢監督と以前話した時も『大島さんみたいな人を選ぼうとしたら20年に1人になってしまう』と言っていた」と大島渚の偉大さを述懐しながら、「しかし今回『やまぶき』を観て、決まった時と聞いて本当にうれしかった。同賞は世界に目を向けている作品に獲ってほしいという気持ちがある。これほど『大島渚賞』にふさわしい作品はない」と喜びを口にした。
続いて受賞した山崎監督が登壇。黒沢監督からのメッセージを喜びつつ、「まず初めに『やまぶき』を共に作ったスタッフ、さまざまな形で関わっていただいた多くの皆さんと共に第4回『大島渚賞』を受け取ります。そしてこれまで映画を通して出会い、別れていった仲間たち、先輩たちにも心から感謝いたします。大島渚賞、その生々しく重たい受賞の連絡をいただいたこの短期間ですでに翻弄されておりますが、決して急がずゆっくりと映画と向き合っていこうといまも自分を落ち着かせています」と受賞の嬉しさを吐露し、「小さな2人の娘とパートナーに感謝します。あなたたちのおかげで私はいくつかの視点を生活のなかに持ち、映画を作ることができています。本当にありがとう」と感謝の意を伝えた。
さらに『やまぶき』の出演キャストたちも登壇。ヒロインの早川山吹役を演じた現在海外で撮影中の祷キララは「『やまぶき』が日本でも評価され、監督がこのようなすばらしい賞の受賞者に選ばれたことを誇りに思います。映画は残り、続いていく可能性に満ちた表現だと思っています。山崎監督の作る映画、そして『やまぶき』が、これからも多くの方々に届くことを願っています」と喜びのコメント。
また、山吹の父親役を演じた川瀬は第一声「おめでとう山崎!」と声をかけ、「本当にこれは小さな映画なんですが、真庭市という都市から山崎が見た世界。その世界の感じ方を彼なりに、誠実に表現した力強い映画であることは間違いありません。今日はこんな嬉しい賞をいただけて最高に幸せです。去年、非常に多くの先輩たち、監督さんたちがこの世からいなくなってしまって悲しいことが続いたんですけど、大島渚監督同様に映画がずっと続いていく、そのことだけで前に進んでいけるような気がします。本当にありがとうございました」と力を込めて語った。
※山崎樹一郎監督の「崎」は立つ崎が正式表記
取材・文/富塚沙羅