村上春樹原作『めくらやなぎと眠る女』がコンペ部門グランプリに!第1回新潟国際アニメーション映画祭が閉幕
長編アニメーションにスポットを当てたアジア最大級の祭典、第1回新潟国際アニメーション映画祭。その長編コンペティション部門授賞式が3月22日に開催され、審査委員長の押井守監督、審査委員のジンコ・ゴトウとデヴィッド・ジェステット、各賞の受賞者が登壇した。
新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション部門は、制作手法は問わず「40分以上のアニメーション作品」であることを応募条件に、記念すべき第1回には10作品が参加し、審査委員による厳選な審査を実施された。また、当初はグランプリのほかに、監督賞、脚本賞、美術賞、音楽賞を設けていたが、これらの従来からある映画賞の代わりに「奨励賞」「傾奇賞」「境界賞」が新たに創設され、受賞者が発表された。
栄えある第1回のグランプリを受賞したのは、村上春樹の小説を原作としたピエール・フォルデ監督の『めくらやなぎと眠る女』。今回の映画祭に来日できなかったフォルデ監督は、ビデオメッセージにて「とてもとてもうれしいです」と受賞の喜び語り、「みなさまの感想も聞きたいので、私のサイトからご連絡ください」とコメントした。
「奨励賞」は、唯一の日本人となった牧原亮太郎監督の『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』が受賞した。牧原監督は「コロナでスタジオに人がいない時期で、もともと配信向けに作った作品。なかなかみなさんの顔を見ながら作品をお見せできることができなかったので。実際にお客さんを見られて感動しました」と制作背景を振り返り、「作ってくれたスタッフのみなさんにお礼を言うこともできなかったので、この場を借りて感謝を伝えたいと思います」とスピーチした。
従来の価値観にとらわれず、斬新で新しいものに挑戦し、創造していく作品に与えられる「傾奇賞」には、ヴィノム監督の『カムサ-忘却の井戸』が受賞。「短編を長編に変えていくという難しい試みを、少ない人数で時間をかけて完成させました。この映画は押井監督の『天使のたまご』からインスピレーションを得たもの。すべてのスタッフや家族、そして押井監督に感謝申し上げたいです」と話し、喜びをあらわにした。
2Dや3D、コマ撮りといった制作手法、またはジャンルの様々な境界捉われず、アニメーションの世界に進化を与える作品に与えられる「境界賞」は、ロスト監督の『四つの悪夢』が受賞した。
受賞作品発表後には、押井監督による総評が行われ、「これだけ多様な表現が10本並んでいると、通常の映画の評価ができるのかという審査の問題があり議論になった。その作品にフィットしたスタイルが必ずあるため、通常の映画祭とは違う方法で評価を行い、作品の趣旨と適合した作品を選びました。審査員が協議して作ったグランプリ以外の賞は、アニメーションが置かれた立ち位置を象徴する賞です」と、新たに賞を創設した理由を話した。
またグランプリ作品については、「現代文学を表現する最適なスタイルではないかと思います。3人の審査員が一致した唯一の作品です」と、審査の裏側を話した。そして「10本の作品のクオリティの優劣を付ける賞ではないことを申し上げたいです。そして、僕の想像を超えて大変すばらしい作品が集まったと思います。第1回にふさわしい、かなり画期的な賞になったと思います」と、映画祭への手応えを語った。
最後に映画祭のフェスティバル・ディレクターを務めた井上伸一郎が「6日間映画祭を開催していましたが、新潟のみなさんのあたたかいおもてなしに感謝します。街中がこの映画祭を応援してくださっていることを実感しました。また、多くのアニメ関係者が交流を深めるという、最初の私の夢が叶いました。映画祭を無事に終えることができたことをすべての皆様に感謝します。新潟、そしてアニメ、最高です!」とスピーチを行い、本映画祭を締めくくった。
取材・文/編集部