タランティーノ絶賛、熱血女性監督が描く“危ないバイト”の行く末
2008年1月、新人監督発掘の場であるサンダンス映画祭でグランプリを獲得した『フローズン・リバー』(2010年正月公開予定)。審査員長クエンティン・タランティーノを完璧にノックアウトしたコートニー・ハント監督がインタビューに答えてくれた。
まず、この映画を作ったきっかけは?と聞いてみた。ハント監督はちょっとうなづいて、身を乗り出し、「数年前、国境沿いの町に行ったとき、カナダとアメリカにまたがったネイティブ・アメリカンの居留地では、凍った川を車で渡って不法移民や密輸が行われているという話を聞きました。貧困や差別を背景に行われる犯罪と凍った川を渡るという危険性にひかれ、リサーチを始めたのです」と、話し始めた。
ハント監督は主人公を、“中年の白人”と“若いネイティブアメリカン”の貧しいシングルマザーたちに設定。緊急に現金が必要なふたりは、互いに人種的な偏見を持ちながらも協力して、違法移民を運ぶ仕事に手を染めていく。
しかし、そんなどん詰まりの二人にハント監督は、「国境も人種も人が作った境界でしかなく、差別や偏見はその境界にとらわれて生まれます。このふたりはほんの数マイルしか離れていない所に住んでいながら、違う文化に属し、境界にとらわれ、互いに偏見を持っています。けれどある事件をきっかけに、二人には母性という“普遍性のある絆”ができ、文化や偏見を超えてつながっていくのです」と、共感を寄せる。監督自身も8歳の娘の母親なのだ。
さらにハント監督は、穏やかだけれど、熱のこもった口調で、「アメリカ映画では貧困層の人々は無視されがちです。彼らは貧しさゆえにヒロイックなことはできない、思いやりや優しさを持てず、善人にはなれないと思われています。けれど私は、むしろ彼らの方が、中流の人々より大変な環境にあるからこそ、困難に立ち向かう強さがあり、助け合う思いやりがあると考えています」と、続けた。
監督の、日にさらされ色が抜けたような金髪は主役の“貧しい白人”中年女性・レイの髪に似ている。二人の子どもを残し、夫に金を持ち逃げされたレイを演じたメリッサ・レオは、本作の演技でアカデミー賞主演女優賞に、ハント監督は脚本賞にノミネートされた。
アカデミー賞の候補になると映画会社が寄ってくるものですがいかがですか?と聞いてみた。ハント監督はおかしそうに笑いながら、「もちろん、ありましたとも(笑)。たくさんの企画が持ち込まれました。(『トワイライト 初恋』の)キャサリン・ハードウィック監督の後を受けてパンパイヤ映画をやらないか、とか(笑)。別にハリウッドを敵視するつもりはないので、まぁ、いい脚本があれば考えます」と答えた。
全米で22の賞に輝いた自信が笑顔に現れる。45歳の新人女性監督が得た栄光。アメリカ映画界にはまだ“アメリカン・ドリーム”が生きているのだ。【シネマアナリスト/まつかわゆま】