片渕須直監督が語る、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像に込めた想い「皆さんはなにを見つけていただけたでしょうか」
『この世界の片隅に』(16)の片渕須直監督が鋭意制作中の最新作『つるばみ色のなぎ子たち』(公開未定)。9月16日にロームシアター京都で行われた「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)2023」において本作のステージイベントが開催され、片渕監督がトークショーに登壇。まだ多くのことがベールに包まれた本作に込めた想いや、この日解禁された3分35秒のパイロット映像について語った。
本作は「枕草子」が書かれた千年前の京都を舞台に、清少納言が生きた時代を描く物語。構想に6年もの歳月が費やされ、徹底的な研究と調査、綿密な分析を進めながら少しずつ制作されているとのことで、片渕監督は「まだ映画の全貌は見えてきていません」と説明。それでもパイロット映像を観た観客からあたたかな拍手が贈られると「ようやくこれだけの長さのものができ、皆さんにご覧いただけた。とても感慨深いものがあります」と目を細くする。
そして「『マイマイ新子と千年の魔法』には、“なぎ子ちゃん”という女の子が出てくるのですが、彼女はその作品の舞台である山口県防府市に住んでいた8歳の清少納言として描いていました。その子が大人になった時、世の中ってどうなっていたのだろうと考えたのが、この映画を作るに至った最初のきっかけです」と、本作が生まれた経緯を明かした。
続けてパイロット映像について「『この世界の片隅に』は昭和の時代なので写真もあり調べることができましたが、千年前にはありません。実は当時の絵巻物も存在しておらず、それが描かれたのは200年も後のことです。どんな服を着ていたのだろうか、どんなふうに彼女は生きていたのだろう。そうやって少しずつ調べて積み重ねてできあがったのが今回の映像です」と語ると、「この映像のなかで、皆さんはなにを見つけていただけたでしょうか?」と観客に語りかける。
「(映像のなかでは)たくさん子どもたちが出てきたし、倒れた人も描かれていました。ちょうど前作の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を制作していた頃、世の中がコロナで大変なことになっていきました。この映画を志した2017年にはこのようなことはまったくなかったのですが、パンデミックを経たことで自分たちがこの作品をつくる意味のようなものが新たにのしかかってきています」と、感染症など様々な理由で多くの人が死に絶える時代だった千年前と現代の情勢との関連性に触れる。
「清少納言が書いた『枕草子』を、改めて独自の視点から読んでみると『その時私たちは色のない服を着ていた』という描写があります。色とりどりの十二単だけでなく、色がない喪服を着ていた時代。つるばみ色というのは、喪服の色だったりもします。そんななかで、大人になったなぎ子ちゃんは『私たちは打ちひしがれていない』と書いたのではないかと思ったりしています」と述べつつ、「とはいえ、それだけがすべての映画ではないということだけは、いまお伝えしておきたいです」と補足した。
そしてトーク終盤、「英語のタイトルを日本語に訳すと“喪に服す子どもたち”という意味になります。あの時代の子どもたちがどんなふうに生きたのか。当時のものから見つけだして映画として描いていこうと考えております。少しつらい予感もしているけれど、そういうものも全部携えて、映画の完成までの道のりを歩いていきたいなと思います」と語りながら、作品の完成は数年先になる可能性を示唆。
「いつか皆さんと一緒に、大きな映画館で響き渡る音と共に味わえたら。それがいま、この最初のパイロットフィルムに抱いた想いです。まだまだ時間はかかりますが、これからも皆さんと一緒に歩んでいけたらと思いますので、よろしくお願いします」と、作品を待ち望むファンに向けて呼びかけていた。
文/久保田 和馬