『シアター・キャンプ』のニック・リーバーマン監督に独占インタビュー。昨今のモキュメンタリーブームの理由とは?

インタビュー

『シアター・キャンプ』のニック・リーバーマン監督に独占インタビュー。昨今のモキュメンタリーブームの理由とは?

現在公開中の『シアター・キャンプ』は、突然昏睡状態に陥った演劇学校の校長に代わり、演劇経験のない息子がキャンプを続行させるモキュメンタリー。ドラマシリーズの世界でもドキュメンタリー調のコメディは旬で、時流に乗った笑いを繰り広げる。MOVIE WALKER PRESSでは、本作を主演のモリー・ゴードンとともに監督したニック・リーバーマンに単独インタビューを行った。

【写真を見る】公私ともにパートナーであるモリ―・ゴードンと並ぶニック・リーバーマン
【写真を見る】公私ともにパートナーであるモリ―・ゴードンと並ぶニック・リーバーマン[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

今年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映され、直後にサーチライト・ピクチャーズが劇場配給権を取得したというニュースが流れた。その時の様子を、リーバーマン監督は「実は、上映直前までブルックリンの小さな部屋で編集作業をしていて、プレミアで突然観客のみなさんに映画を披露したような感じでした。大事な大事な赤ちゃんを突然白日の下に晒し、それが評価を受けるという状態で、会場で観客の笑い声や笑顔などの反応を直に感じることができたのはとても美しい体験でした。まるで、僕らの“ちょっと変わった映画の世界”に入り込んでしまったようで」と思い返す。特に、劇場公開を契約条件に入れたサーチライトのオファーに感銘を受けたという。「僕らはみんな、映画館へ行って大勢の観客とともに笑いながら映画を観る体験を恋しがっていました。そういった劇場体験を念頭にこの映画を作ったとも言えます。この映画のテーマは、ライブ・エンターテインメントに参加し、観客もその一部となり、会場のエネルギーを肌で感じるというものだったから」。

シアター・スクール「アディロンド・アクト」を舞台に、俳優志望の子どもたちがミュージカルを作り上げる模様を描く
シアター・スクール「アディロンド・アクト」を舞台に、俳優志望の子どもたちがミュージカルを作り上げる模様を描く[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

今作は、2020年にリーバーマン監督が作った17分間の短編映画が基になっている。長編映画にするにあたり、短編映画で挑戦した演出技法を磨き上げ、物語構成を固めたのちに即興演技の分量を増やしたという。およそ8割のセリフが出演者たちによる即興演技で、それは共同監督・主演のモリー・ゴードン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)をはじめ、ベン・プラット(『ディア・エヴァン・ハンセン』)、アヨ・エデビリ(ドラマシリーズ「一流シェフのファミリーレストラン」)など、芸達者な役者たちによって作られている。リーバーマン監督は「実際に俳優たちに即興で演技をしてもらって気づいたことは、ストーリーを語るシーンや、物語の運びとして重要なシーンほど、アドリブがやりやすくおもしろくなったということ。物語の構成が決まっているので、役者たちも安心して『どうしたらおもしろくなるか』とアイデアを持ち込みやすかったんだと思います」と語り、長年の友人であるモリー・ゴードンやベン・プラットらとのコラボレーションが、映画が放つ魅力の一部になっていると認める。


『シアター・キャンプ』のニック・リーバーマン監督が語る、モキュメンタリーブームの理由とは?
『シアター・キャンプ』のニック・リーバーマン監督が語る、モキュメンタリーブームの理由とは?[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『シアター・キャンプ』ような“モキュメンタリー”(擬似ドキュメンタリー)調のコメディは、『スパイナル・タップ』(84)や、リーバーマン監督がインスピレーション源に挙げる『みんなのうた』(03)などを作ったクリストファー・ゲスト監督(ちなみに妻はジェイミー・リー・カーティス)が築いたジャンル。最近はアヨ・エデビリもゲスト出演した「アボット・エレメンタリー」やPrime Videoの「ジューリー・デューティ ~17日間の陪審員体験~」、そしてネイサン・フィールダーの「リハーサル ‐ネイサンのやりすぎ予行演習‐』など、モキュメンタリーの派生系コメディシリーズが人気を博している。モキュメンタリー調のコメディを作る際に最も重要視している点は「プロダクション・デザインやカメラワークなどを、できるだけ現実的に作り込むこと」だとリーバーマン監督は言う。そして「モリーと僕はシネマ・ヴェリテ(対象へのインタビューなどで作り手の存在を感じさせ、撮影や編集などでリアリティを追求する手法)がとても好きで、かなり勉強しました。このジャンルのコメディや即興演技は、観客が現実っぽいと感じるところから生まれ、その瞬間を撮影しているカメラマンが、なにが起きているか理解できず驚いているような状況が大事です。というわけで、カメラマンの立ち位置や、登場人物との距離は適切か?ということを常に意識していました」と語る。

モリ―・ゴードンとニック・リーバーマン
モリ―・ゴードンとニック・リーバーマン[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

先述のように、アメリカでモキュメンタリー調のコメディが増えている理由には、世の中に映像が氾濫し、現実と創作の境界線が薄れているところにあると指摘する。例えば『シアター・キャンプ』の劇中で使われている子どもたちの映像は、ベン・プラットとモリー・ゴードンが子どものころに参加していた演劇キャンプの実際の映像で、そこがこの映画の出発地点だったと捉えることもできる。「映像が氾濫するいま、昔は思いもよらなかったような疑問が生じています。人は映像を観て『なにが本物で、なにがフェイクなのか?』と考えます。自分の人生をすべてSNSにアップしている人たちは、基本的にその人生を自分で作り上げているとも言えるでしょう。真実と虚構の境界線は、とても曖昧なものになっています。僕らの映画は明らかにフィクション寄りだと思うけれど、その境界線を行ったり来たりするようなすばらしい作品がたくさん作られています。モリーとベンは小さいころに一緒に演劇をやっていて、あれは彼らが演劇をやっている実際の映像であり、この映画は真実のものから引き出されているんだということがわかると、異なる興奮と注目を集めるでしょう。真実の質感を持っているからおもしろいのです。このような流行はとても興味深いですね」。

取材・文/平井伊都子

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