「映画制作の資金集めは甘くない」映画監督たちが東京国際映画祭でトークセッション
現在開催中の第36回東京国際映画祭で10月29日、「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」が開催。「私たちの映画の作り方」と題したトークセッションが行われ、井口奈己監督、瑚海(さんごうみ)みどり監督、山崎エマ監督、澤寛(さわかん)監督、戸田彬弘監督が登壇した。
2008年に『人のセックスを笑うな』、2014年に『ニシノユキヒコの恋と冒険』を公開している井口監督は、今回の東京国際映画祭にて、45分の自主映画『左手に気をつけろ』を上映。トークセッションで制作の経緯を問われると、「皆さまの参考にならないかもしれませんが、作品を収集されている小説家の金井美恵子さんと画家の金井久美子さん姉妹から『映画を撮ったら?』と企画をいただいて。私は映画教室のドキュメンタリー(『こどもが映画をつくるとき』)を撮っていたのですが、それを観た金井さん姉妹から『子どもが暴れる作品を撮ったら?』とのお声をいただきまして、『子どもをどうやって暴れさせようかな?』ということを考えながら制作しました」と回答。映画配給については「劇場に直接持って行って、(ミニシアターを束ねる団体)コミュニティシネマセンター加盟の全国の映画館へ…と考えています」と話した。
俳優としてのみならず、映画監督として短編映画作品を制作する瑚海監督は、同映画祭で『99%、いつも曇り』を上映する。瑚海監督は、2021年の東京国際映画祭で「Amazon Prime Video テイクワン賞」審査員特別賞を受賞しているが、「映画制作の資金集めは甘くない」とコメント。「“ポッと出”だと、いまから制作会社に入ることもできないし、出資してくれる人もなかなかいない。私は、文化庁から支援金が出ることを知って『これはチャンスだ』と思い、申請を出したらもらえることになったのでラッキーでした。でも、(映画を作りたいという人に)チャンスは少ないなと思う。日本は芸術に対するバックアップが少ない。才能がある人が埋もれてしまっているというのは現実だと思います」と、資金集めに苦労したことを振り返った。
なお、『99%、いつも曇り』は12月15日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開が決定。配給については「入れるほどの予算がなく、人から紹介してもらったり、自分で連絡したりしてやっと公開が決まったという感じ。アップリンク吉祥寺は雰囲気のある自分の好きな劇場。そこからちょっとずつミニシアターを回っていけたらと思います」と語った。
都内のある公立小学校の1年間に密着した作品『小学校~それは小さな社会~』を制作した山崎監督は、「NHKのカメラマンをくどいて一緒にやってもらうことになり、制作費の面でNHKにカバーしてもらいながら、世田谷区の協力も得て撮ることができました。私もほかの仕事をしながらの1年間の撮影でしたが、なんとかなるだろうという冒険的な部分もありました」とコメント。配給については「映画をやっている限り劇場公開は考えていて、日本での配給も来年できるようにと考えています。配信なども考えながら、末永く…というのを目指しています」とのことだった。
自身の生い立ちや経験を織り交ぜ、現代家族を包括的に描いた映画『かぞく』を制作した澤監督は、「自分の写真作品を観たプロデューサーが映画を撮るために動いてくれました」と回顧。これまで、澤田石和寛(さわたいしかずひろ)として「るろうに剣心」シリーズや、CM「au 三太郎」シリーズの衣裳デザイン、キャラクターデザインを務めてきたことが「映画を撮ることにつながった」と振り返り、「制作・配給はアニプレックスの1社で考えていただいている状態です」と話した。
そして、自身が率いる劇団チーズtheaterの旗揚げ公演作品「川辺市子のために」を原作とした映画『市子』の戸田監督も、瑚海監督同様「資金の調達は厳しかった」とコメント。しかし、舞台を鑑賞したプロデューサーが作品を気に入ってくれたそうで、「『映画化しよう、一緒になにかやらないか』と言ってくださって。プロデューサーが『委員会を組みます』と動いてくれました」と映画化に至った背景を明かし、「12月8日からテアトル新宿他、全国でロードショーが決まりました。ロングで公開できたらと思っています」と意気込んでいた。
取材・文/平井あゆみ