東京国際映画祭グランプリ『雪豹』チーム、急逝したペマ・ツェテン監督に奮闘誓う!ヴェンダース監督は映画に平和への可能性見出す

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東京国際映画祭グランプリ『雪豹』チーム、急逝したペマ・ツェテン監督に奮闘誓う!ヴェンダース監督は映画に平和への可能性見出す

11月1日、第36回東京国際映画祭が閉幕。クロージングセレモニー後には受賞者記者会見が行われ、コンペティション部門の審査委員長を務めたヴィム・ヴェンダース監督をはじめ、各賞の受賞者が出席。喜びを語った。

世界中から優れた映画が集まる、アジア最大級の映画の祭典である東京国際映画祭。今年のコンペティション部門には、114の国と地域から1942本がエントリー。コンペティション部門の審査委員長は、『パリ、テキサス』(84)や『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)などで知られるヴェンダース監督、審査員をアルベルト・セラ監督、プロデューサーの國實瑞恵、チャン・ティ・ビック・コック、女優のチャオ・タオが務めた。

【写真を見る】受賞者記者会見で笑顔を見せたヴィム・ヴェンダース監督
【写真を見る】受賞者記者会見で笑顔を見せたヴィム・ヴェンダース監督

クロージングセレモニーを終えたヴェンダース監督は、「全員が満足のいく形で、すべての賞を与えることができた。最終的に全員一致の意見で、結論に至ることができました。とてもうれしく、いい仕事をしたなと感じています」と充実感をにじませた。受賞結果を見渡すと、最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞を獲得した『雪豹』(ペマ・ツェテン監督/中国)をはじめ、アジア作品、もしくはアジア人監督による作品が多くを占めた。「その結果をどう思うか?」と尋ねられたヴェンダース監督は「いま指摘されて初めて気づきました」と笑顔。「説得力ある、心に伝わる作品を選ばせていただいた。アジアの作品が高い水準の作品であったということだと思う。私たちは、国籍を見て議論を行ったことはありません。映画の質を見ていました」と語った。

第36回東京国際映画祭、最優秀女優賞を受賞した『タタミ』のザル・アミール(監督/俳優)
第36回東京国際映画祭、最優秀女優賞を受賞した『タタミ』のザル・アミール(監督/俳優)

審査委員特別賞と最優秀女優賞(ザル・アミール)のダブル受賞を果たした『タタミ』は、イスラエル選手との対戦を避けるため、イラン政府から棄権を強要された女子柔道選手とコーチとの葛藤を描く。イラン出身でフランス在住のザル・アミール監督、イスラエル出身で米国在住のガイ・ナッティヴ監督による共同作品だ。セレモニーに寄せたビデオメッセージでは、アミール監督が「いたるところで無実の人々が不正により血を流し、私たちが生みだした混乱のなかで無力になっています。しかし私たちは映画を作りました。この映画は憎しみ合うよう育てられた人々の奇跡的な組み合わせにより生まれた物語です」と対立の続くイランとイスラエルの監督が共同で仕事をするという、極めて困難なことに挑んだ映画だと話し、「日本で“柔道”という言葉は柔和な道を意味すると聞きました。それこそが私たちが進みたい道です。未来ある唯一の道です」と映画に託した想いを明かしていた。

平和は「実行可能だ」と話したヴィム・ヴェンダース監督
平和は「実行可能だ」と話したヴィム・ヴェンダース監督

記者からは、「いまはイスラエルとパレスチナが対立していたり、ロシアとウクライナが戦争をしています。不安定化している世界情勢のなかで、イランとイスラエルの監督の共同作業であるということは、審査に影響しましたか?」と質問が上がった。ヴェンダース監督は「この作品がよいものでなければ選びませんでした」と切りだし、「物語を伝える力強さ、役者の演技の力強さ、映画の言語がとても明確だったという点で、本作は優れていた」と影響はないと説明。「今回の作品で監督として共同作業をしたことは、平和が実行可能であるということを示したと思います。平和の敵は、お互いを除外する過激な思想、行動であると思います。いまはとても悲惨で悲しい状況にあります」と平和を願った。

第36回東京国際映画祭、受賞者記者会見の様子
第36回東京国際映画祭、受賞者記者会見の様子

審査員のメンバーと、とてもいい友人になったというヴェンダース監督。「ぜひ私たちのこのグループで旅をしたい」と微笑み、「今回お互いのことが大好きになりました。お互いの持つ視点を尊重しながら仕事をすることができた。残念ながら、東京国際映画祭はこれにて閉幕です。参加できたことを幸いに思っています。皆さんが恋しくなると思います」と離れ難い様子で、審査員全員とハグを交わしていた。

『雪豹』チーム、監督を想い感無量!
『雪豹』チーム、監督を想い感無量!

最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞を獲得したのが、本年5月に急逝したチベット人監督ペマ・ツェテンの最後の作品のひとつである『雪豹』だ。チベットや中央アジアに生息する雪豹を題材に、自然と人間の関係を問う作品となる。キャストのジンパは「監督の残してくれた数々の作品のように、私たちもすばらしい映画をつくっていきたい。一生懸命に頑張っていきたい」と宣言。同じくション・ズーチーも、「監督はいなくなってしまいましたが、私の人生においてもっとも重要なひとりです。監督を失望させないように、しっかりと俳優として努力していきたいと思います」と力強く語り、「演技経験のない素人だった」というツェテン・タシも、「監督にお会いしてこの道に入り、これからも役者をやっていこうと思っています。監督はよく『すべてのことはそんなに焦らずゆっくりやればいい。一生懸命に頑張っていけばいい』とおっしゃっていました。監督の言葉を胸にこれからも頑張っていくつもりです」とツェテン監督に約束していた。


第36回東京国際映画祭、観客賞&最優秀監督賞の『正欲』岸善幸監督
第36回東京国際映画祭、観客賞&最優秀監督賞の『正欲』岸善幸監督

観客賞と最優秀監督賞のダブル受賞を果たしたのが、『正欲』の岸善幸監督。『雪豹』、『タタミ』、そして『正欲』も、弱き者の声にフォーカスを当てている点において共通しているが、岸監督は「そういうテーマ性を持った作品のなかに、『正欲』もあったという認識をしていただいた。原作者の朝井リョウさん含め、スタッフ、キャストみんなが難しいテーマに向かって、悩みながら撮った作品。監督賞と共に観客賞をいただきました。僕たちの伝えたかったことは、今回(賞を)獲られたほかの作品と共通のものかもしれません。僕たちの視点で社会の捉え方を提示できることが、率直にうれしいです」と目尻を下げていた。

取材・文/成田おり枝

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