虚淵玄「『鬼滅の刃』や『ゴールデンカムイ』は、僕のなかの”時代劇観”からは出てこない」會川昇と語り合った、時代劇アニメの未来

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虚淵玄「『鬼滅の刃』や『ゴールデンカムイ』は、僕のなかの”時代劇観”からは出てこない」會川昇と語り合った、時代劇アニメの未来

新潟市で開催中の第2回新潟国際アニメーション映画祭。3月19日にはシネ・ウィンドでオールナイト部門の「時代劇アニメの魅力、ファンタジー全盛期のいま作られるべきものとは?」と題したトークショーが行われ、會川昇が登壇。来場予定だった虚淵玄は体調不良により、リモートで出席し、時代劇アニメにも関わったことのある脚本家の2人がその魅力を語り合った。

同映画祭のオールナイト部門では、根強いファンが多い時代劇をフィーチャー。薮下泰司監督の『少年猿飛佐助』(59)をはじめ、『劇場版 戦国奇譚妖刀伝』(89)、「機構奇傳ヒヲウ戦記(第21話)」、『ストレンヂア 無皇刃譚』(07)の4作品の上映の前に、會川と虚淵によるトークショーが行われた。また、会場に駆けつけていたニトロプラスに所属する大樹連司がトークに参加する場面もあった。

まずはそれぞれが印象的な時代劇を明かすことになり、「魔法少女まどか☆マギカ」や「Fate/Zero」「PSYCHO-PASS」などに携わってきた虚淵が「『カムイの剣』です」と1985年に公開されたりんたろう監督の作品をあげ、「当時としてはものすごくスタイリッシュな映像で、子どもながらに強烈な印象があります。刀と忍者、スタイリッシュアクションへの憧憬はそこから」と回想しつつ、會川も脚本に携わったOVA作品「妖刀伝」や「妖魔」も大好きだと告白。「ほかのアニメにはない、妙な画面の暗さやシリアスさ。あとこう言っては悪いですが、人命の軽さというか。戦争映画と同じくらい人が死にうる世界観。そのなかでのドラマツルギー」と心惹かれた点を明かすと、會川が「それがあって、虚淵さんはいま割と人命の軽い感じの作風があったり?」といじるように続け、会場も大笑い。虚淵は「学園ものよりは、戦場や極限状態のほうが物語は作りやすいというのはありますよね」と認めていた。

「鋼の錬金術師」や 「un-go」など脚本で知られる會川昇
「鋼の錬金術師」や 「un-go」など脚本で知られる會川昇

一方の會川は「放っておくとNHKがついている家だった。大河ドラマなどを観ていた。NHKの人形劇で『新八犬伝』や『真田十勇士』が放送されていた時期があって。僕たちが子どもだったころはほぼ毎日『新八犬伝』を観て、歌を歌っていたりして。おもしろいコンテンツがあると受け取っていた」と親しんだ幼少期を回顧。「その後、SFを読むようになって。第一世代SF作家さんは、必ず時代ものに手を出していた。爪痕を残すために時代SFというのが出てきて、それを読むと異常におもしろい。歴史の裏には実はこんなことがありました、実はこの人は宇宙人でしたよなど、時代ものとSFって組み合わせると、こんなにおもしろいの!?と思った。『妖刀伝』はまさにそういう影響を受けているし、時代ものって古いジャンルではなくて、こうやってクロスオーバーすることでおもしろいジャンルになるんじゃないの?と思ったり、アニメが一番、時代劇に向いているんじゃないかと思い始めた。お金がないから実写の時代劇が作れなくなったという人もいる。アニメなら時代背景やアクションも充実できる」とアニメと時代劇の相性のよさについて触れ、虚淵も「SFと時代劇の混合など、実写でやるとしたら相当しんどいと思う」と同調。


さらに會川が「本来、実写の時代劇でもSFっぽいものはできる。でもなぜかうまくいかない」と持論を明かすと、虚淵は「実写だと『時代劇はこう作らねばならない』という部分があるのかもしれない。アニメだからこそ、大目に見てもらえて好き放題もできちゃう。それが自由さになっているのかも」とアニメで魅力的な時代ものが生まれている背景について、想いを巡らせた。

ニトロプラスに所属する大樹連司もトークに参戦
ニトロプラスに所属する大樹連司もトークに参戦

アニメの時代劇には自由度があると分析しつつも、「時代考証はどこまでやるべきか?」という話題になると、虚淵は「時代劇は、作る時に構えてしまうところがある。ちゃんと頑張らないといけないと思った」と胸の内を明かす。現実とは異なる歴史を歩んだ江戸時代の長崎を舞台にした時代劇「REVENGER」でも、しっかりと時代考証をしてもらったうえで、せっかくアニメでやるからこそできる「嘘をついていった」という。企画として時代劇を通す際にも「考証の大変さもあるし、生半可な覚悟では作れないという気分にはなる。変な責任を感じて、膝をそろえてしまうところがある」と告白。會川は、作り手が「構えてしまう」という感覚が「メガヒットする時代劇が生まれない原因なのかと悩むこともある」と続け、「『もののけ姫』のことは誰も時代劇とは言わない。でも冒頭はすごい時代劇ですよね。『もののけ姫』みたいなものがヒットするならば、アニメとしての時代劇には幅があるはず。『鬼滅の刃』も記録を更新していると思うと、時代劇にポテンシャルがないと言っているのは、作り手の勝手な思い込みで、受けとるほうは求め続けてくれているのかもしれない」と期待を込めた。

【写真を見る】深夜の上映にも関わらず、会場は大盛り上がり!
【写真を見る】深夜の上映にも関わらず、会場は大盛り上がり!

そして「時代劇に挑んでみて苦労もあったか?」という質問に、虚淵は「背景や世界観的に、女性を活躍させようがない。世界観があるがゆえの、女性キャラの動かしづらさはある。現代的な我々の倫理観を持ち込んだところで、世界観を破綻させてしまう難しさがある」と回答。パラレルワールドが舞台ならば「作者の都合で、女性が活躍している江戸時代に書き換えるというやり方もあった?」と會川が尋ねると、虚淵は「我々の価値観とずれているがゆえのディストピアというところに、時代劇の魅力の根っこがあるような気がしている」とその根っこを変えてしまったら時代劇ではなくなってしまうと見解を述べ、會川とうなずき合っていた。

時代劇アニメの潮流について、「SFや美少女、ロボットをジャンルとして選べるように、時代劇が選択肢の一つとして気楽に扱えるジャンルになれば。最近は、企画として少し気楽にできるようになってきているのでは」と會川。しかし虚淵はどうしても「信仰が足を引っ張っている」そうで、「どうしても(時代劇は)『こうあってほしい』というところに行ってしまう。それがヒットを狙ううえでの都合の良さと噛み合わないのが、悩ましくもある」と虚淵の思う時代劇らしい時代劇をやろうとすると、ヒットの法則から外れてしまう可能性がある様子。「やっぱり『鬼滅の刃』や『ゴールデンカムイ』は、僕のなかの時代劇観からは出てこない。あの祝祭感というか、お祭り騒ぎ感、ドラマツルギー。そこですよね。ディストピア風景描写としての暗い景色というところだと、作っていくのには限界がある。そこを脱却した作品にはいくらでも可能性がある。それはいろいろなヒット作が証明している」と正直に打ち明けるひと幕もあった。「『REVENGER』はすごく幸せな機会をもらった。(企画の段階で)方向性をがっつり示してもらったうえで、僕の思う時代劇を、殺し屋という現代風な題材でやることができた」と感謝しつつ、「また時代劇にも関われるチャンスがあるはず」と観客に期待感を抱かせていた。

新潟国際アニメーション映画祭は、世界で初となる⻑編アニメーションを中心とした映画祭。アニメーションや漫画関連に従事する人々を約3000名以上輩出している日本有数のアニメ都市である新潟から世界へと、多岐にわたるプログラムを発信している。3月20日まで新潟市内で開催される。

取材・文/成田おり枝

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