心打つ名演の秘訣は?『異人たち』孤独な2人を映しだした本編映像
山田太一の小説をイギリスのアンドリュー・ヘイ監督が映画した『異人たち』が4月19日(金)に公開される。このたび、本編映像が解禁となった。
1987年に出版され、第1回山本周五郎賞を受賞、日本を代表する名脚本家、作家である山田太一の長編小説「異人たちとの夏」を映画化する本作。『荒野にて』(17)、『さざなみ』(15)など数々の賞に輝いた監督、脚本家のヘイがメガホンをとっており、英国インディペンデント映画賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、音楽監修賞など、主要部門を独占する最多7冠に輝いた。また、第77回英国アカデミー賞、第81回ゴールデングローブ賞にノミネートされるなど、賞レースでも注目を集めている。本国イギリスでは、初登場2位、4週連続トップ10を維持するスマッシュヒットとなり、山田のオリジナリティのあるストーリーに、ヘイ監督ならではの感性あふれる脚色と演出が加えられたことで、時代を超えて多くの人々の心に残り続ける傑作となった。
今回解禁されたのは、アンドリュー・スコット演じる主人公のアダムと、ポール・メスカル演じるハリーが出会う本編映像。ロンドンにそびえ立つ真新しいタワーマンションの上層階で暮らすアダムは、12歳の時に両親を交通事故で亡くす悲劇を経験して以来、埋めようのない喪失感に苛まれずっと孤独に生きてきた。ある夜、ハリーと名乗るミステリアスな青年が、アダムの部屋のチャイムを鳴らす。日本製のウイスキーをちらつかせて「飲まない?」と誘ってくるハリー。彼は「俺が怖い?」、「部屋の外に吸血鬼がいるんだ」と謎めいたことを言う。突然の訪問に戸惑うアダムだが、ハリーの姿からは、必死に人の温もりを求めているような、どこか切羽詰まった雰囲気が感じられる。寂しさと孤独を抱えた2人は、この日を境に親密な関係になっていく。また、本作には父親役、母親役として、ジェイミー・ベル、クレア・フォイが出演する。
アダムを演じたスコットは、「アダムはとても孤独な人物です。とても危うい境地にまで行かなければならないという意味で、演じるのは大変な役でした」とキャラクターについて語っている。アダムを演じる難しさを痛感していたと言うが、本作について「即座に心を奪われました」と出演を即決したことを明かした。また、メスカルは自身が演じたハリーとアダムの関係について「彼らは真のつながりを見つけるのだと思います。映画の中でアダムとハリーが持っているようなつながりを見つけるのは、ますます難しくなっているのです」とコメントした。
また、メガホンをとったヘイ監督はメスカルについて「とても自然体で素晴らしい俳優で、以前から好きでした。繊細さと力強さが絶妙に融合された、実に興味深い存在です」と次代を担う才能あふれる俳優として絶賛した。また、共演者であるスコットも「彼には信じられないほどの才能があります。親密なシーンをたくさんこなさなければなりませんでしたし、一緒に笑い合える相手、背中を押してくれる相手がいることはとても重要なことです。この物語には悲しみがたくさんありますが、彼は、決して多くの俳優に備わっているわけではない、明るさを演じる能力を持っています」とメスカルの存在に助けられたことを明かしている。
さらに、本作の公開にあわせて現在、山田の追悼企画も開催されている。追悼企画<映画で辿る――山田太一と木下惠介>は神保町シアターにて、3月23日から4月19日(土)の期間で実施。日本を代表する名脚本家、作家である山田の軌跡を辿り、ヘイ監督が現代に蘇らせた映画『異人たち』をより楽しめる企画となっている。
孤独な2人は、見失った互いの魂をどのように見つけ出すのだろうか?実力派キャストだからこそ成し得た、美しく夢幻的な映画体験をぜひスクリーンで楽しんでほしい。
文/鈴木レイヤ