憧れの薬師丸ひろ子との仕事に“カイカン”の行定勲監督
豊川悦司、薬師丸ひろ子共演の『今度は愛妻家』(1月16日公開)は、ある1組の夫婦を描いたラブ・ファンタジー。40歳を迎えた行定勲監督が「自分と同じ世代の俳優と一緒に大人の映画を作りたかった」と、ずっと温めてきた作品だ。そこで、行定監督に映画の見どころを聞いた。
この映画を撮るきっかけは2002年に初演された同名舞台を行定監督が観たことに始まる。「原作の舞台を観たとき、前半の笑いと後半の泣き、その振り幅があまりにも広くてとても驚いたんです。ただ、舞台の構成を映画でどう表現するか、ものすごく(脚本家の伊藤ちひろが)大変だったと思います」と、映画化のきっかけを語り、映画ならではの魅力についてこう続ける。
「映画の力点をどこに置くかということが重要でした。舞台のような“空間”で見せるのではなく“時間”で見せること、それが見事に融合されれば、舞台の良さを交えつつより良い作品になるんじゃないかと。とても慎重な作業でしたが、突然フラッシュバックを入れるなど工夫しています。前半は笑えて後半は泣ける。そして、その間には“何か”がある。その振り幅を楽しんでほしいんです」。
愛情をうまく伝えられないカメラマンの夫・北見を豊川悦司が、その妻・さくらを薬師丸ひろ子が演じている。監督はこの2人を「ちくはぐな夫婦」だと言い、それが映画にとってプラスなのだと説明する。
「お似合いの夫婦にはしたくなかったんです。根底では支え合っていても、10年も一緒にいたら距離は開いていく。それを表現したくて、カメラマンという仕事の夫と健康オタクの奥さんにしました。そうすることで、この2人の世の中に対する温度差を表現できると思った。何よりも、分かり得なかったこと(自分の知らない妻の一面)があると、北見に後悔させたくて(苦笑)。そのためにはちぐはぐさが大切だったんです」。
監督のイメージを実現するには、もちろん俳優の演技力に重きがかかってくるわけだが、納得のキャスティングだったと自信の笑み。
「豊川さんは僕が助監督時代から一緒に仕事をしている信頼のおける俳優さんですし、薬師丸さんは僕が子供の頃のトップスター。薬師丸さんに関しては、彼女の20代のあの輝きをそのまま40代に持ってきたかった。そして、僕も“薬師丸映画”を演出したんだ! という気持ちを味わいたかったんです(笑)」と、薬師丸との仕事は念願だったようで、微妙に声が弾む。
また、豊川の演じる駄目亭主ぶりは「共感できる」と大きく頷く。男性は夫・北見に、女性は妻・さくらに共感。それが本作の見どころでもある。
「最愛の人を想うことはこんなにも切ないのか……と思いました。でも、普段はそれに気が付かないものなんですよね。最愛の人がいること、最愛の人を想うことがどんなに幸福なことなのか──それに気付いたらきっと優しくなれるだろうし、社会の見え方も変わってくると思う。隣にいる人が幸せであることを実感すると、自分の心の中がちょっとだけあったかくなる、そう思うんです」。
泣ける映画は珍しくないが、「笑い」と「泣き」の両方を閉じ込めた日本映画はそう多くはない。笑って泣いて最後に温かくなれる本作を大切な人とぜひ!【取材・文/ライター新谷里映】