「プロジェクトX」的サクセスストーリーではなく、人間としての素顔を描く『フェラーリ』など週末観るならこの3本!

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「プロジェクトX」的サクセスストーリーではなく、人間としての素顔を描く『フェラーリ』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、フェラーリの創始者の激動の1年を映すドラマ、男女の性の不条理に切り込んだ鳥飼茜による同名漫画の実写化、ユアン・マクレガー父娘が親子に扮したヒューマンドラマの、人々の葛藤を描く3本。

気難しく独善的と呼ばれたエンツォの真髄が見てとれる…『フェラーリ』(公開中)

F1の帝王と呼ばれたエンツォ・フェラーリの情熱と狂気を描く『フェラーリ』
F1の帝王と呼ばれたエンツォ・フェラーリの情熱と狂気を描く『フェラーリ』[c]2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

世界的スポーツカーメーカー、フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリの実像に迫る人間ドラマ。1957年、業績不振やライバルメーカーの猛追で経営状況に追い込まれたエンツォは、ロードレース“ミッレミリア”優勝に全精力を傾ける。レーサーからエンジニアに転向し、一代で世界有数のスポーツカーメーカーを築いたエンツォ。本作が描くのは「プロジェクトX」的サクセスストーリーではなく、人間エンツォの素顔だ。

愛人との二重生活、病死した息子への愛、そして誰よりも速い車を作ること…何事にも妥協せず狂気とも呼べる強い思いで臨む姿に、気難しく独善的と呼ばれた彼の真髄が見てとれる。レースシーンもすさまじい迫力で、特にクライマックスのミッレミリアはレースを取り巻く環境や容赦ないクラッシュを含め細部まで丁寧に描写。メイクでエンツォに変身したアダム・ドライバーの熱演も見事だが、なにより夫への複雑な思いを爆発させる妻ラウラを演じたペネロペ・クルスの名演に圧倒された。(映画ライター・神武団四郎)

多くの人たちの心に寄り添い、解放する…『先生の白い嘘』(公開中)

男女の性差に翻弄される、高校教師の原美鈴(『先生の白い嘘』)
男女の性差に翻弄される、高校教師の原美鈴(『先生の白い嘘』)[c]2024「先生の白い嘘」製作委員会 [c]鳥飼茜/講談社

えっ、えっ、嘘でしょ?…ページをめくるごとにそんなワードが頭の中にひしめく鳥飼茜の禁断のコミックが、ついに実写映画化。高校教師の美鈴は、居酒屋で親友の美奈子から美鈴もよく知る早藤と婚約したことを告げられる。だが、次のシーンでは男子生徒の新妻が女生徒のスカートの中を覗いていたという騒動が起き、さらに次のシーンでは自分の股間を撮影する早藤を受け入れる美鈴の信じられない姿が映しだされて…。そんな目を背けたくなるようなシーンが連続する本作だが、ドラマ「あなたの番です」、「あなたがしてくれなくても」でも女性の繊細で複雑な心情を体現した奈緒が、そんな美鈴を体当たりで生々しく演じているから、さらに衝撃が走る。

だが、奈緒が演じたことで、男と女の不平等を感じながらもそれに甘んじ、時には利用し、早藤の女性を侮蔑した暴力的な行為を受け入れてしまう矛盾した自らの感情に蓋をする美鈴が身近な存在に。男女の「性差」を振りかざすように美鈴の身体を求める早藤を風間俊介が恐ろしい形相と言葉で体現し、複雑な性の悩みを抱えた男子生徒の新妻にHiHi Jetsの猪狩蒼弥が挑んだのも、本作が描く問題から目を背けないで欲しいという願いに起因した勇気ある行動だと思う。そう、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(16)の三木康一郎監督が初めて自ら映像化を熱望し、ドラマ「透明やゆりかご」、「きのう何たべた?」などの安達奈緒子が脚本を担当したこの映画は、息苦しい現代で自分の本当の感情を偽ったり、隠して生きている多くの人たちの心に寄り添い、解放するもの。痛みを伴うが、ただの問題作ではないのだ。(映画ライター・イソガイマサト)


力強くポジティブな後味をもたらす…『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』(公開中)

ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガーW主演作『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』
ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガーW主演作『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』[c]2024 SOBINI FILMS, INC. All Rights Reserved.

疎遠にしてきた父と娘が、青いトラックで旅をするロードムービー。断絶した親子の絆再生というテーマに目新しさはないが、色んな瞬間やシーンが輝くように心に残る。初長編監督ながらMV監督として高く評価された33歳、新鋭エマ・ウェステンバーグのセンスに拠るところも大きいだろう。娘のドラッグ過剰摂取、父娘関係の経緯、旅の目的などが、少しずつ明らかになっていく語りも上手い。

ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガー初の親子共演という話題性もさることながら、クララが脚本に参加しているように、親子のすれ違いやそれによる傷、理解と和解など、2人の関係性が重なり透けるのも、より親密で味わいも深くなる。タイトルになったレオナ・ルイスの大ヒット曲「Bleeding Love」を車中で2人が歌い出すシーンも印象深い。ずっと父の愛を欲していた/娘に尊敬される父親でいたかった…という思いが歌詞にリンクし、せつなくてジンジンくる。父親の薬物乱用が娘に連鎖していく厳しい社会問題や現実を描き込みながらも、ポップさを失わない語り口だからこそ、力強くポジティブな後味をもたらしてくれる。(映画ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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