演者たちのハイレベルな化学反応と贅沢な世界を存分に堪能できる『スオミの話をしよう』など週末観るならこの3本!

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演者たちのハイレベルな化学反応と贅沢な世界を存分に堪能できる『スオミの話をしよう』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、長澤まさみが主演を務めた三谷幸喜5年ぶりの最新作、吸血鬼の少女と犯罪グループが過ごす一夜を描くアクションスリラー、新聞記者が”心の居場所”を見出していく姿を描いたヒューマンドラマの、バラエティに富んだ3本。

多彩な顔を持つ彼女を長澤まさみが演じ分ける…『スオミの話をしよう』(公開中)

【写真を見る】屋敷に集ったスオミの5人の夫たち(『スオミの話をしよう』)
【写真を見る】屋敷に集ったスオミの5人の夫たち(『スオミの話をしよう』)[c]2024「スオミの話をしよう」製作委員会

大富豪の詩人、寒川の妻スオミがある日突然失踪。刑事の草野が部下の小磯(瀬戸康史)と一緒に寒川の大豪邸にやってくる。そこから始まる三谷幸喜の5年ぶり9本目となる最新監督作は、三谷ワールドのすべてのエッセンスを詰め込んだミステリー・コメディ!

なにしろ刑事のふたりが寒川の世話係、乙骨(戸塚純貴)の案内で入ってくる豪邸の室内は、舞台のそれを思わせるようなゴージャスなセット。そこで坂東彌十郎が演じる寒川がスオミの現在の夫で、西島秀俊が扮した草野が彼女の4番目の前夫であることが明かされるが、その長~いやりとりのシークエンスを流麗な移動カメラワークの長回しで撮影。と思ったら、そこに最初の夫(遠藤憲一)、2番目の夫(松坂桃李)、3番目の夫(小林隆)も次々に参戦。“誰がスオミをいちばん愛していたのか?愛されていたのか?”といった、くだらなくもコミカルなトーク・バトルをそれぞれの濃~いキャラを全開させて繰り広げるのだから面白い。

しかも、各人が語る思い出の中のスオミは、見た目もキャラも性格もまるで別人で、そんな多彩な顔を持つ彼女を長澤まさみが演じ分けるという贅沢なアプローチ。スオミはいったいなに者?といったことはさておき、長澤の歌に合わせて、出演者全員が踊るカーテンコールのようなミュージカルシーンまで、いい意味でやりたい放題。西島や松坂桃李が踊る姿も本作でしか見られない!?三谷幸喜だからできた、演者たちのハイレベルな化学反応と贅沢な世界を存分に堪能できる極上の114分だ。(映画ライター・イソガイマサト)

いままでありそうでなかった、ユニークな設定のバイオレンスホラー…『アビゲイル』(公開中)

バレリーナヴァンパイアとの恐怖の一夜を描く『アビゲイル』
バレリーナヴァンパイアとの恐怖の一夜を描く『アビゲイル』[c] 2024 Universal Studios

誘拐、監禁した12歳のバレリーナの正体は、なんと吸血鬼!かくして6人の犯人一味は隠れ家で恐怖の一夜を過ごす…といういままでありそうでなかった、ユニークな設定のバイオレンスホラー。

主要舞台となる豪邸は隠れる場所はあるものの、俊敏なヴァンパイアに見つかったら諦めざるをえない。血を吸われるどころか親でも顔の見分けがつかないほどの惨殺死体と化すのだから恐ろしい。当の吸血鬼アビゲイル(アリーシャ・ウィアー)はというと、ダンスを舞いながら残虐行為におよび、その描写にはブラックユーモアもジワリとにじむ。寄せ集めの誘拐犯6人の関係性の変化も面白く、それぞれの疑心暗鬼によってスリルは加速。緊迫のサバイバルを、ぜひ体感して欲しい。(映画ライター・有馬楽)


人生楽じゃないけど捨てたもんでもない…『ヒューマン・ポジション』(公開中)

病気の療養から復職した新聞記者の日常を映す『ヒューマン・ポジション』
病気の療養から復職した新聞記者の日常を映す『ヒューマン・ポジション』[c] Vesterhavet 2022

朝焼けのような、黄昏時のような、柔らかな光につつまれた港町。そんな街の丘や坂道をゆっくり上り下りして歩くのは、本作のヒロイン、アスタ(アマリエ・イプセン・ジェンセン)。細かな説明を一切省き、アスタの“いま、生きる瞬間”があるがままに映しだされる。なるほど、ここはノルウェーの長い夏。喧騒からほど遠い人影まばらな静かな町の、ゆっくりした時の流れ。私たち観客は、アスタがどこか哀し気なのはなぜか、なにを考えなにを思うのか、いまは人生のどんなステージか、探るようにじっと見つめ続ける。

そんな彼女の表情がフと緩むのは、ガールフレンドのライヴ(マリア・アグマロ)と過ごす時間。アスタが月ならライヴは太陽のように、光と温もりと笑顔と生気を、作品にも同時にもたらしてくれる。作中、大したことは本当になにも起こらない。ただ傷ついたアスタが、公私を通して社会復帰するまでを、寄り添うように見つめ続ける。ただそれだけのことが観る者を飽きさせないのは、特徴的な画づくりをベースとした映像、どこまでも美しい港町オーレンスの風景。椅子の修復や作曲など、小さなエピソードの重ね方も心くすぐる。人生楽じゃないけど捨てたもんでもない。そう優しさとユーモアで包みこむような、抜け感が心地よい。監督は本作が長編2作目となる新鋭アンダース・エンブレム。(映画ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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