滝沢馬琴&葛飾北斎の天才同士の新しい"尊さ"に感動!漫画家・大友しゅうまの“映画紹介マンガ”で初心者も『八犬伝』が丸わかり
伝説の8つの珠を持つ8人の剣士が、運命に導かれて集結し、呪いをかけられた里見家を救うために壮絶な戦いに挑む。日本ファンタジーの原点と称えられる「南総里見八犬伝」を圧倒的スケールで描く“虚”のパートと、その物語の作者・滝沢馬琴の知られざる半生を描く“実”のパートが交錯するエンタテインメント超大作『八犬伝』(公開中)。
いまから200年近く前の江戸時代の人々を夢中にさせた大ヒット小説は、いったいどのように誕生したのか?今回、映画紹介マンガシリーズをSNSで発表し、単行本「泣ける映画大全」も刊行したばかりの漫画家・大友しゅうまが本作を鑑賞。クリエイターとして「作家の滝沢馬琴と浮世絵師の葛飾北斎、2人の関係性がすごく刺さった」という彼が、映画『八犬伝』の紹介マンガの描き下ろしと共に、本作の魅力や見どころについて語ってくれた。
「馬琴と北斎はこんなに親しい仲だったんだ!というギャップのおもしろさを感じた」
「南総里見八犬伝」を執筆中の馬琴が、友人の北斎を聞き役に、ストーリーを語る様子が描かれる“実”のパート。主人公の馬琴を演じる役所広司と、北斎役の内野聖陽、芸達者な名優2人が見せる軽妙なやりとりの芝居を観た大友は「2人はこんなに親しい仲だったんだ!というギャップのおもしろさを感じました」と話す。
「馬琴先生が初めて北斎に物語の始まりを話した時、『どう?おもしろいと思った?』って、ちょっと不安そうに聞くんですよね。それに対し、北斎が『おもしろい!』と興奮して、いま聞いた話からイメージした絵まで即興で描いちゃう。北斎のああいう素直なところもいいし、そんな北斎にうれしくなっちゃう馬琴先生もかわいかった(笑)」。
大友自身、連載マンガを描く時は、まずネームを担当編集者に見せ、ダメ出しを受けるという「大事だけど、キツい作業」があるため、「馬琴先生も、新作の構想を初めて北斎に聞いてもらう時は、ドッキドキだったと思います」と馬琴の気持ちに深く共感。
「そこで、あの天才の北斎が『おもしろいよ』とちゃんと言ってくれたので、心のなかでは小躍りするくらいうれしかっただろうなって思いました。あのやりとりで、2人の関係がよりステキに見えましたね。お互いの才能を認め合ったうえでの会話に、新しい“尊さ”みたいなものがあって、観ていてすごく楽しかったです。そんな2人に対して、ちょっと嫉妬しているような馬琴の奥さんの想いもよくわかるし。あの天才同士の2人にしかわからない、ほかの人が絶対に入り込めない空気感がたまらなくよくて。僕はそこが一番好きでしたね」。
「馬琴と鶴屋南北の意見、両方に共感できた」
鑑賞中、心情的に馬琴サイドに立っていた大友が、「ハラハラしながら観た」と振り返るのは、馬琴が歌舞伎作者の鶴屋南北と創作にまつわる長問答を繰り広げるシーン。北斎と「東海道四谷怪談」の歌舞伎を見に行った馬琴は、舞台の裏側を見学する際に、その作者である南北と出会った。 “勧善懲悪”という軸を大切にする馬琴と、人の悪行や闇が“実”であるという考えで「怪談」の物語に落とし込んで娯楽性を求める南北。思考が真逆なクリエイター同士が激しい議論をした。
「物語のなかだけでも、正義が報われてほしいと願う馬琴先生の熱い想いは、本当にかっこよくて美しい。でも、そうでありたいよなあと思う反面、現実のうまくいかない部分を描くというのも、やっぱりすごくおもしろい。どちらかと言うと、僕は鶴屋南北派の作品が好きなんですけど、馬琴先生と南北の意見、両方に共感できました」と話しつつ、「馬琴先生はあんなふうに言われちゃったら、つらかったはず」と馬琴を思いやる。
「まさに物語を執筆中の大事な時に、自分とは真逆の鋭い意見をぶつけられたわけで、『もうこれで、馬琴先生、書けなくなるのでは?筆を折っちゃうんじゃないの?怖い!』って、すごく心配したんですよ。もちろん、相当悩んだんだろうけど、結果的に馬琴先生が書き続けることができて、よかったとホッとした気持ちでした」。
ちなみに、最新刊「泣ける映画大全」では、様々なジャンルの映画の感動どころを紹介している大友。本作で彼自身が泣けたシーンについて聞いてみたところ、「終盤、目が見えなくなってしまった馬琴先生と、彼の息子さんの妻で、執筆をサポートしているお路の姿を見た北斎の反応」という答えが返ってきた。「北斎が2人の姿を思い出して、ポツリとつぶやいた言葉に無性に感動して、めっちゃ泣きました。そこは、映画の冒頭部分のシーンとも対になっているので、ぜひ注目してほしいですね」。