滝沢馬琴&葛飾北斎の天才同士の新しい"尊さ"に感動!漫画家・大友しゅうまの“映画紹介マンガ”で初心者も『八犬伝』が丸わかり
「物語の先が気になって、どんどんその世界観にのめりこんでいった」
実は今回『八犬伝』を観るまで「馬琴の『南総里見八犬伝』は詳しく知らなかった」という大友は、「出てくる役者さんたちも豪華だし、映像も迫力満点だし、丁寧に描かれているので、元の物語を全然知らなくても、めちゃくちゃ楽しめる!」と太鼓判を押す。
「やっぱり『南総里見八犬伝』の物語をそのまま映画にするだけでなく、作者の馬琴先生側の苦悩や、北斎との友情という“実”のパートが一緒に描かれることによって、『八犬伝』のいろんな側面が見えるというよさがあったと思います。すごく絶妙な構成だったと感じました」。
馬琴と北斎、2人のキャラクター同士の関係性に惹かれた“実”のパートに対し、大友が“虚”のパートで印象的だったのは、なんといっても「ストーリーのおもしろさ」だったという。「八犬士たちが不思議な運命に導かれて、どんどん集まっていく。最初は敵だと思って、刀を交え合った相手が、まさかの同じ珠を持っていて、同じ牡丹の形の痣があって、仲間だとわかる。そういう展開って、少年マンガっぽくて、アツいんですよね」。
元の物語を知らないことによって、「馬琴からストーリーを初めて聞いている北斎と同じ立場になって、北斎に感情移入しながら、一緒になって『南総里見八犬伝』を観続けたという感覚が味わえる」のもポイントだ。「北斎と同じように、早く続きが見たい!という感じで、物語の先が気になって、どんどんその世界観にのめりこんでいきました」。
“虚”のパートで、大友が特に好きだったキャラクターは、里見家を救うために、名刀・村雨を手に戦いに挑む犬塚信乃(渡邊圭祐)。「八犬士の中のリーダー的な存在で、とにかくシンプルにかっこよかったですね!信乃と犬飼現八(水上恒司)が、芳流閣の屋根の上で戦うシーンのVFX映像も、めちゃくちゃ力が入っていて、観ながらドキドキしました。現八が縄を放って、信乃を捕らえようとした時、信乃があえて自分で屋根から落ちていくっていう一連のアクションがもう圧巻すぎ…屋根の上というシチュエーションを大胆に活かした、スピード感あふれる戦闘は本当にすごい!」と感動した。
「馬琴の書いた物語が、いろんな形でいまの名作にも影響与えていて、改めて『八犬伝』の偉大さを感じた」
江戸時代に書かれた作品であるにも関わらず、本作で「南総里見八犬伝」の話を初めて知った大友は「古さはまったく感じなかった」と強調する。「自分にとっては、まさに“新作”という気持ちで観ていました。例えば、伏姫の八つの珠が散り散りになるところは、ちょっと『ドラゴンボール』っぽいなって思ったり、名刀・村雨から水がほとばしるところや、八犬士にそれぞれ牡丹の形の痣があるところは、『鬼滅の刃』っぽいなと思ったりして。馬琴の書いた物語が、いろんな形で、いまの名作といわれるマンガにも影響を与えていることがわかるんですよね。改めて『八犬伝』の偉大さを感じました。この新鮮な感覚は、本作でしか味わえないと思います」。
馬琴が「南総里見八犬伝」を刊行開始から28年かけて完結させたという事実にも「胸を打たれた」と大友はしみじみ語る。「いまでいう『ONE PIECE』とか『こちら葛飾区亀有公園前派出所』とか、数十年単位の長期連載のマンガと同じように、長い歳月を費やしてエンタメ作品を書き続けていた人が、200年近く前からいたんだ!ということも驚きでした」。
老いてもなお、みずみずしいクリエイティビティを持ち続け、小説を書くこと、絵を描くことをやめなかった馬琴と北斎。2人の姿には、かつて「藝大受験で3浪した時、自分のやりたかったこと、夢や好きなことがわからなくなった時期があった」という大友自身にも、強く響くものがあったようだ。
「2人とも、やっぱり楽しいんだろうなぁって。好きじゃないと、ああやって人生を賭けて、ずーっと一つのことを続けるって、きっとできないと思うんです。好きなことをやるのが一番だなと、2人の姿を見ていて思ったんですよね。僕は大学の4年間で、ようやく自分の好きなことがマンガだと気づけて。好きなものを見つけることができて、やりたいことがある!って、すごく幸せなことなんだなと、この映画を通して、改めて実感させてもらった気がします」。
取材・文/石塚圭子