「物語の核にあるのは“希望”」『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』監督が語る、原作ファンと作り上げた映画化に込めた想い
愛する人からの暴力を背景に、逆境や困難に直面する女性の強さと再生を描き、全世界で発行部数1,000万部を突破するベストセラーを記録した同名小説を映画化した『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』(公開中)。本作を手掛けるにあたって、ジャスティン・バルドーニ監督は「この映画にはインティマシー・コーディネーターとスタント・コーディネーターの両方が必要不可欠でした」と明かし、観客からは見えないところで作品づくりを支えるスタッフへの感謝と敬意をのぞかせる。
「我々はリジー・タルボットとチェルシー・キャリーというインティマシー・コーディネーターを迎え、スタント・コーディネーターには友人のローレン・ショーを招きました。彼らは現場を安全に保つだけでなく、すばらしいアイデアを提供してくれました。それが作品の質をさらに引き上げたと思います」と制作者の立場から語ると、「彼らが必要になるようなシーンを撮ると、役者としては緊張が体に溜まる。次のシーンに取り掛かる前に、一旦現場を離れて解放されることが大切だったのです」と、バルドーニ監督は“俳優”としての立場からもその必要性を説いた。
元々は俳優として活動していたバルドーニ監督は『ファイブ・フィート・アパート』(19)で長編監督デビューを飾り、本作が3本目の監督作。監督と出演を兼任するのは今回が初めてのことで、主人公のリリー(ブレイク・ライブリー)が情熱的な恋に落ちる脳神経外科医のライル役を自ら演じている。
「最初は監督として関わることだけを考えていましたが、『自分にできるだろうか?』『女性が監督すべき作品なのでは?』という葛藤もありました。そのため、映画化の権利を取得する段階で自分のなかに演じてみたいという気持ちが芽生えてきても、それを口に出すのが怖いとも感じていました」。そんな折、原作者であり映画の製作総指揮も務めるコリーン・フーヴァーから提案され、ライル役を演じることを決意したという。
「多くの読者が思い描いているライルのキャラクター像になろうとするのではなく、自分自身を役柄に投影したいと思いました。リリーがなぜライルを愛したのか、そしてその愛がどのようなものだったのかを観客が理解できるように演じたかったのです。なぜなら、そこには真実の愛があったから」と、役に臨むうえで重視したことを明かし、「キャラクターの感情的な側面にしっかり取り組んだことで、深く考え込まずに役を体現することができたと思っています。映画の準備を進めながら役作りも行ない、ライルが自分のなかに自然と存在できるようにしました」。
一方、監督を務めるにあたっては、原作小説のファンが望むものを反映することに注力したと振り返る。それを実現するためにバルドーニ監督は、脚本の初期段階ができたタイミングでフーヴァーとコンタクトを取り、原作ファンによる脚本会議を提案。SNSで招集をかけて12人の熱心な原作ファンを集め、脚本でなにが足りていないかなどの意見を聞き取り反映させる。まさに原作ファンと一緒に作りあげた作品といえよう。
「私が特に重要だと思っていたのはエンディングです。物語全体がこの複雑で繊細な瞬間に向かって進んでいき、その感情的なアークをしっかりと着地させる必要がありました。そしてもう一つは屋上のシーン。ここが映画全体の基盤となり、このシーンが成功しなければエンディングもうまくいかなくなる。映画の最初の10分間で、2人のキャラクターの関係性と、お互いに惹かれ合うようになった理由を理解してもらう必要があります。この2つのシーンに多くの労力を注ぎました」。
さらにリリー役と製作総指揮と務めたライブリーが加わってからは、脚本に対して様々な助言をするだけでなく、撮影現場で即興も加えることでリリーという人物がより固められていくことに。「彼女のおかげで、原作の真の姿をスクリーンに再現できたと思います」と、バルドーニ監督は自信たっぷり。「ブレイクはすべてをより良いものにする。あらゆる分野を網羅するクリエイターです。彼女は私たち2人の演技のニュアンスに非常に敏感で、この映画を美しいものにするために尽力してくれました」と熱烈な賛辞を送ると、「観客が彼女の人生最高のパフォーマンスを目にするのが楽しみで仕方ありません」と、穏やかな笑みを湛えた。
最後にバルドーニ監督は「この物語は、私にとってずっと“愛”についての物語です」と、これから作品を観る観客に向けて語りかける。「その核にあるのは“希望”。これはリリーが経験する痛みや悲しみを軽んじるものではありません。むしろ彼女がその痛みを乗り越えたからこそ輝くものです。観客がこの映画を観たあとに希望を感じ、自らの人生で断ち切るべきサイクルを乗り越える準備ができることを、心から願っています」。
構成・文/久保田 和馬