北野武が語る「アウトレイジ」と落語の共通点とは?大森南朋はシリーズへの憧れ爆発
北野武監督が手がける唯一のシリーズプロジェクトで、裏社会の男たちの仁義なき抗争を描いた「アウトレイジ」シリーズが、10月7日(土)より公開となる『アウトレイジ 最終章』でフィナーレを迎える。「『アウトレイジ』シリーズに憧れがあった」と言い、待望の初参加を果たした大森南朋とともに、北野監督が最終章に込めた思いを語った。
主人公となるのは、ビートたけし扮する昔気質の男・大友。二大勢力だった関東山王会と関西花菱会の巨大抗争後に韓国に渡っていた大友が帰国し、権力争いの真っ只中に突っ込んで行く姿を描く。大友が最後にどのような決着をつけるのかに注目が集まるが、北野監督は「大友は古いタイプでね。世話になった人には、命をかけてでも恩返しするような男」とシリーズを通して演じてきた大友について解説する。
仁義を貫こうとする大友の生き様を描いてきたが、北野監督は「非常に不条理」と本シリーズで展開するドラマについて語る。「落語の人情噺にも、不条理で“ひどいな”と思うやつがある。例えば『文七元結』という噺も、不条理で残酷でひどい話なんだけど、それも人情噺と言われるんだよね。それは本作にも言えること。大友は(前作より登場する国際的フィクサーの)張(チャン)会長に昔から世話になっているから、張(チャン)会長がもし自分の考えと逆のことをしていたとしても、会長のために相手を殺しに行くはず。“親分のため”というのがあるからね」。
続けて「やっぱり、不条理の中で人間関係に巻き込まれて死んでいったり、殺されたりという展開は、エンタテインメントとしては妙に面白いんだと思う」とやくざモノを描く面白さも、“不条理のドラマ”にあるという。「『アウトレイジ』から暴力と拳銃を取ったら、一般社会の話と同じだよね。古いタイプのサラリーマンは会社のために体を張る。でもその結果、すべてを取られてしまう、みたいにね」と昔堅気の男には“悲哀”がつきもののようで、最終章となる本作にも哀しみが漂う。
大森は、その大友について「憧れですし、本当にかっこいい。曲げないで自分の意地を貫いている。理想的にかっこいい男」と惚れ惚れ。劇中では大友を慕う男・市川を演じたが、実は大森自身も北野監督に憧れを抱き続けてきた。
「もちろん漫才ブームの頃から拝見させていただいていますし、役者を始めたときにはいつか北野監督の映画に出たいと思っていました」。『Dolls(ドールズ)』『アキレスと亀』に出演してその夢を果たしたが、「アウトレイジ」シリーズには「ぜひ参加したい」と思っていたそうで、「ずっと“僕の出番はないのか”“また他の役者さんなのか”と嫉妬していた(笑)。なので今回のオファーは、待ちに待ったものでした。最高の気持ちで現場に行かせていただいた」と喜びを隠しきれない。
しかも大友を慕う役どころとあって、「願ったり、叶ったり。常に近くにいられて、マシンガンも一緒に撃てた。市川が大友を慕っているように、僕はいち役者として北野監督を見ているので、市川と同じ気持ちでいたところがあります」と自身を重ねながら演じた。北野監督は「前に2本やって、うまいなあと思った。俺の作品じゃないものを観ても“なんでもできるな”と思った」と大森を信頼しきり。「西田(敏行)さんたちと同じ画面に入っても、大丈夫だと思った。もうあの人たちは発酵食品だから。くさやとか鮒寿司みたいなもん(笑)」。
北野監督が楽しそうに語るように、強面のメンバーの芝居合戦が見ものだ。劇中同様に「役者がそろうとね、勝負が始まるから」と現場では実力派陣による演技の戦いが繰り広げられた。これには大森も「西田さんの凄みも見させていただいて、恐怖もありましたが、楽しかったです。西田さんも塩見(三省)さんもご病気をされた後で、それだけに“現場に帰ってきたんだ”という鬼気迫るものがありました。気迫、力強さを感じました」と感動。
北野監督は「西田さんは思いもよらぬアドリブをするしね。塩見さんは、芝居が始まったらまったくミスをしない。リハでも“カメラを回しておけばよかった”と思った芝居が何度もあったし、異常なほど迫力があった。役者さんは、やっぱりすごいよ。執念はすごい」としみじみと語る。シリーズのフィナーレを飾るにふさわしいグッとくる演技の連続。ぜひスクリーンで、男たちの生き様を堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】