アカデミー賞ノミネートの『聖なるイチジクの種』監督が明かす、タブーに挑む覚悟「私の作品は、秘密裏に製作されたもの」

アカデミー賞ノミネートの『聖なるイチジクの種』監督が明かす、タブーに挑む覚悟「私の作品は、秘密裏に製作されたもの」

第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、第97回アカデミー賞国際長編映画賞にドイツ代表としてノミネートを果たした『聖なるイチジクの種』(2月14日公開)。このたび本作から、メガホンをとったモハマド・ラスロフ監督のインタビュー映像が解禁された。

2022年にイランで実際に起き社会問題となった、ある若い女性の不審死に対する市民による政府抗議運動を背景にした本作。国家公務に従事する一家の主イマンは、勤勉さと愛国心を買われて予審判事に昇進。報復の危険が付きまとう業務のため護身用の銃が支給されるのだが、ある日、家庭内から銃が消えてしまう。最初はイマンの不始末による紛失と思われたが、やがて疑いの目は妻や娘にも向けられていく。そして家庭内を疑心暗鬼が支配することに。

『悪は存在せず』(20)で第70回ベルリン国際映画祭の金獅子賞に輝いたラスロフ監督は映像のなかで、「私の作品のほとんどは秘密裏に製作されたものです。しかし本作が最も大変で、なかでも難しかったのはプロジェクトを危険に晒すことなく俳優を選ぶことでした」と、検閲にとらわれない自由な映画づくりへの願いと、そのビジョンに共感する人を集めることがいかに困難かを語る。

逮捕される危険に晒されながらもイラン映画界の大きなタブーを打ち破るために「勇敢な女性たちがヒジャーブなしでカメラの前に立った」こと、スタッフたちと物語を進めるための打開策を見出してきたこと、そして本作が無事に完成したことを「奇跡」と振り返る。その上で「いま彼らはプレッシャーをかけられ訴訟を起こされています」と、いまなお困難な状態が続いていることを明かした。


映像の冒頭で見られる本編カットでは、父親の昇進を祝う席で母親が娘たちに今後の立ち振る舞いを説く様子が収められている。自由に生き、暮らすことがままならない未来を悲観する少女たちの表情で表現される、厳しい制約のなかにある母国を脱してまで命懸けで闘うラスロフ監督の想い。この上質なサスペンスを通して、その覚悟を受け止めてほしい。

文/久保田 和馬

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