ナオト・インティライミ、常に「I'm ready」でいる重要性を語る
“インティライミ”という名前の由来どおり、“太陽(インティ)”のように明るく、“お祭り(ライミ)”のように楽しんで音楽を謳歌してきたアーティスト、ナオト・インティライミ。彼が原点回帰をすべく、アフリカ大陸をはじめ世界各国を旅した半年間に密着したのが、ドキュメンタリー映画『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2』(前編11月23日公開、後編2018年1月5日公開)だ。ナオト・インティライミがその旅を振り返り、改めて音楽や旅の素晴らしさを語った。
2016年、アーティストとして脚光を浴び、喜びを感じつつも、忙殺され、疲弊していったと言うナオト。「非常にありがたかったんです」と前置きをした後「でも、飽和状態でした」と告白。
「今のままではいけない」と思ったナオトは、迷いながらも旅に出ることを決意した。「半年なのか、1年なのか、2年なのか悩みました。スタッフとも話しましたが、2年行くとさすがに忘れられちゃうかなあと。とにかく行こうと思って行ってみたんです」。
ナオトが巡ったのはアフリカ14ヵ国、ルーマニア、スウェーデン、ドイツなどで、彼はその土地の人々と積極的にコミュニケーションをとっていった。時には即興でライブに参加したり、カーニバルで歌い踊ったりして、心と感性を開放していったと言う。「旅の初日、モザンビークでいきなり歌うことになるとは思っていなかったです。旅ではいつのまにか自然な流れでそうなることが多かったです」。
特にアフリカ音楽からは大いに刺激を受けたというナオト。「アフリカ中の最高の音楽が集結するというザンジバルのフェスでは、4日間で200組くらいが参加していましたが、とんでもなかったです。丸4日間、狂喜乱舞しているんです。あの時点でもう日本に帰ってもいいくらいの“刺激渋滞”が起きていました。また、ジンバブエのカーボベルデのカーニバルも良かったですし、マダガスカルの村での出会いも大きかったです」。
ナオトの心を揺さぶったのは、エネルギッシュな音楽はもちろん、心から音楽を楽しんでいるアフリカの人たちの表情だった。
「彼らを見て、ああ僕もここから始まったんだと改めて感じました。たとえば、ミュージシャンがフェスのリハが終わってからも3、4時間、ビール片手にギター1本で、全く観客もいないのにずっと歌い続けているわけです。日本だったらリハを終えたらすぐに帰るんだろうけど、ずっと楽しそうに歌っている。歌いたいから歌う。ああ、自分もそうだったなと思い出しました」。
地元のアーティストの曲を耳でコピーして覚え、いきなりライブで彼らに呼ばれて、セッションに加わったナオト。彼はどんなに忙しくても「I'm ready」でいることが大切だと言う。
「単純に言えば、チャンスが来た時にそれをつかみたいんだろうね。いつ来るのかもわからないけど、万が一来た時のために準備をしておく。それは音楽だけの話ではなく、人とのつながりでも言えることかもしれない。会えるかどうかわからないけど、もしこの人にあったら準備しておこうと思うことはけっこうありますね」。
実際、地元のビッグアーティスト、ティト・パリスと空港でばったり遭遇したナオト。しかし彼は「日本にいてもこういう奇跡は起こっている」と考えている。
「旅で得たものは日常にも当てはめることができるんです。もちろん旅は出会いや刺激が多いけど、必ずしもそれは特別なことではなくて。生きていれば必ず、サプライズやハプニングがある。そのことを意識しているだけで、人生における心の豊かさや幸せは変わってくるんじゃないかと」。
半年間の旅でじっくり充電できたというナオトは「今後その分をたっぷりと放電していきたい」と決意を新たにする。
「俺はこれまで何回も折れてきました。これまでにいろんなことがあり、デビューも実質3回目で、14歳で音楽を始めて足掛け25年となります。20年以上かけてようやく今スタートラインに立てた感じです。ここからまた夢を叶えなければいけない」。そう語ったナオトの表情は、まさに太陽のようだった。
取材・文/山崎 伸子