井浦新&瑛太が限界超え!?2人が感じた喜びとは?
かねてから競演を待ち望んでいたという井浦新と瑛太が、『まほろ駅前』シリーズの大森立嗣監督作『光』(11月25日公開)で火花を散らす。舞台挨拶で井浦は瑛太を「愛してやまない人」という言葉でほめたたえ、瑛太も「新さんと共演して、より好きな部分が立体的になり、いろんな側面が見えました」と相思相愛。日本映画界を牽引する映画俳優の2人はこの現場でなにを思い、なにを得たのか?
『光』で最初に登場するのは、原生林が生い茂る美浜島だ。ある日、信之は中学の同級生の恋人・美花を守るために殺人を犯し、その現場を4つ下の幼なじみの輔に見られてしまう。ところが津波が島を襲い、その3人だけが生き残る。25年後、信之(井浦新)、美花(長谷川京子)、輔(瑛太)の3人の人生が再び交錯していく。
原作者の三浦しをんと大森監督という『まほろ駅前』シリーズの最強タッグの下、大森組に絶大な信頼を寄せる井浦と瑛太は、スクリーンでは見事な化学反応を見せた。井浦は瑛太と対峙できたことを心から喜ぶ。
「瑛太くんとのシーンは、人間ではなくなっている感じでした。いわゆる人間の凶暴さや暴力ではなく、動物が自分を守るために相手を噛み殺してしまうような本能的な行為でした。虚構の中に飛び込んでいき、瑛太くんと芝居をしている時は自分の本当の姿となり、僕はなんて幸せなんだろうなと思いましたね。それはこの作品でしか味わえなかった経験でした」。
瑛太も「お芝居の究極の楽しみを味わってしまった」と手応えを口にする。「お芝居はどこか計算するというか、頭で考えるものですが、今回はそういうものを超えたところに行けました。もちろんこれまでもそういう経験をしたことはあるんですが、今回はほぼすべてのシーンにおいてその快感を得てしまったんです」。
2人だけではなく、ミステリアスなヒロインを演じた長谷川京子や、夫と愛人の間で揺れ動く信之の妻・南海子役の橋本マナミが発する熱量もハンパではない。
2人との共演シーンがあった井浦は「女優は怖いなと思いました」とニヤリ。「橋本さんは映像がつながってみて、本当に驚かされました。輔といる時と、信之たち家族3人でいる時の顔がまったく違っていたので、長谷川さんは難しい役だったと思います。撮影日数が短い中で、よくあそこまで一気に仕上げてきたなと。おそらく監督の演出で削ぎ落としていく作業が必要だったのではないでしょうか。ふたりとも、本当に素晴らしかったです」。
瑛太は、橋本演じる南海子と逢瀬を重ねていく役どころだった。「最初は僕も緊張していたんですが、橋本さんの役に対する真摯な向き合い方が、南海子がもがいている姿と重なりました。橋本さんの芝居のアプローチも、自分の欲や、女優・橋本マナミのイメージなどを全部排除し、完璧にゼロから作っているところが素晴らしかったです」。
ともにモデルを経て、演技派俳優としてのキャリアを積み上げてきた2人。時を経て互いに守るべき家庭をもつ身となったが、役柄のオンオフをどう切り替えているのだろうか。
井浦は「デビューしてから10年くらいの間は、引きずるほどまで役にのめり込むことが正解だと思いこんでいた時期がありました」と当時を振り返る。
「役を引きずり、他の仕事ができなくなってしまうこともあったくらいです。スイッチのオンオフはないんですが、今は引きずるというよりは、むしろ“食ってしまう”という感覚かな。今となっては日常があることが大きな支えになっています。たとえば人を殺すようなシーンを撮った日でも、家に帰れば何も変わらない日常がある。逆にそれがなかったら危なかったかもしれない。今回も信之役をここまでやったなら、自分の栄養にしちゃえばいいかなと」
「また、オンオフの切り替えがやりづらい環境のなかでトレーニングしていった方が身につきそうな気もします。人を殺していく台詞を読みながら、子どもといっしょに遊ぶとか。そういう難しいこともやってみたら気にならなくなってきました」。
瑛太は「演じる役について言えば、僕が携わると決まった瞬間、僕がその役になるんです」という解釈だ。「現場に行ったら勝手にオンにされるという感覚ですね。昔は役作りなどでいろいろと考えたりしていたけど、今は瑛太という人間が常に役でいるという解釈です。だから現場が終わって家に帰っても瑛太なんです。今はそういう捉え方です」。
非常に穏やかで充実感に溢れる面持ちでインタビューに答えてくれた2人。演技力と共に人間力まで培ってきた2人は、今後もますますその両方に磨きをかけていくに違いない。
取材・文/山崎 伸子