エル・ファニングにとって“パンク”とは?異星人を演じた新作の魅力を語る

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エル・ファニングにとって“パンク”とは?異星人を演じた新作の魅力を語る

日本でもミニシアター上映ながら大ヒットを記録した『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)など、インディーズ映画界でその奇抜な才能を発揮するジョン・キャメロン・ミッチェル。彼が、イギリスの人気幻想作家ニール・ゲイマンの短編を映画化した『パーティで女の子に話しかけるには』が12月1日(金)から公開される。

1977年のイギリスの田舎町・クロイドンを舞台に、パンクロックに明け暮れる主人公エンが、友人たちと忍び込んだパーティで、偶々地球に訪れていた異星人たちに遭遇。その中にいたザンという少女に恋をするというファンタジックな青春ラブストーリー。史上最年少でトニー賞を受賞したアレックス・シャープを主演に迎え、アカデミー賞女優のニコール・キッドマンが派手なメイクで出演していることも話題の作品だ。

このザンという名の、不思議な魅力を放つ少女を演じたエル・ファニング。現在19歳の彼女は、姉であるダコタ・ファニングが脚光を浴びた『アイ・アム・サム』(01)で、ダコタの演じたルーシーの幼い頃の役を演じてデビューしていらい、すでに50本近い出演作を誇る。今年だけで日本公開される出演作は本作を含めて5本もあるなど、今もっとも引っ張りだこの女優なのだ。

「様々な役を演じてみたいと思っていて、とくに自分の性格と真逆なものを演じたいという気持ちが強い。それが、いろんな映画に挑戦する理由です」と語るエル。彼女からは、すでに大女優の片鱗が見えはじめている。

これまで、フランシス・フォード・コッポラやデヴィッド・フィンチャー、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ソフィア・コッポラなど多くの名匠たちの作品に出演してきた彼女は、本作でメガホンをとったジョン・キャメロン・ミッチェルについて「彼自身が俳優ということもあって、キャストにとって何が必要かを理解してくれている監督だった」と語る。

人気俳優ベン・アフレックがメガホンをとった『夜に生きる』(17)が先に公開されているが、実は本作の方が先に撮影されている(2015年秋に行われた)。彼女にとって俳優経験のある監督の作品に出演するのは本作が初めてだっただけに、他の専業監督たちとは違うコミュニケーションの取り方に、とても感銘を受けたことを明かした。

そしてミッチェル自身の人間性については「すごく温かいハートを持っている人」だと表現。「気持ちを正直に表現する人だから、作品にハートが宿っている。だから私もそれに応えなきゃ!って気持ちになりました」と、共鳴しながら本作に臨んだことを明かした。

そんなミッチェルの感受性の高さと、役者への気配りの高さを感じられるエピソードとして「役者がもろくいられるように、常に安全な現場を作り出してくれた」と、撮影現場を振り返ったエル。それでも、極寒の中で行われたクライマックスシーンの撮影では、雨風に打たれ、凍えながら待っていこたと語る。

「撮影に入ったら、自然と涙が流れてきて、気持ちが高ぶって。それで撮影が終わった後に、次のシーンでまた元気になれるようにとピザを頼んでもらいました」と、本作の劇中でアレックス・シャープとはしゃぎまわっているシーンを想起させるような、ハジけた笑顔を見せたエル。

本作で注目すべきは、劇中で流れ続けるパンクミュージックと、これまで3度オスカーに輝く衣装デザイナー、サンディ・パウエルが手がけた煌びやかな衣装の数々。エルも、劇中では3つの衣装を身にまとっている。同じコロニーに属する異星人たちのユニフォームである黄色いボディスーツに、エンから借りたヴィンテージのコート、そしてライブを行う場面でのパンク衣装。

その中でもパンクの衣装がお気に入りだと語るエル。「黄色いボディスーツが本当にきつかったから、ライブシーンでの衣装は、解放されて自由に楽しむことができたし、自由に楽しむザンを演じることができた」とコメント。

ニコール・キッドマン演じるパンク界隈のゴッドマザー“ボディシーア”のもとで、アメリカから来たカルトバンドのボーカルのふりをして即興でパンクロックを歌い上げるこのシーンは、本作の目玉のひとつだ。

まさに、劇中で描かれる時代背景や、エンとザンを結びつける“パンク”こそが、本作のメインテーマなのである。エルにとって“パンク”とは何かを訊ねてみると「自分自身であることかな」と明かす。

そして「あらゆる物事に怖がらないで、自分自身の中に自由を見つける。自分のことをしっかり声に出したり、自分の意見に対して責任を取れることがパンクじゃないかな、と思います」と、しっかりした口調で語った。

イギリスで制作された本作をはじめ、デンマークの俊英ニコラス・ウィンディング・レフンの『ネオン・デーモン』(16)など、今やハリウッドを飛び出し、欧米の映画界全体を担っていく大女優への道を歩きはじめているエル。本作で初めてティーンエイジャーの恋物語に挑んだことについては「青春ラブストーリーの側面もありながら、ひねりも加わっているのが私らしいな」と振り返った。

そして彼女は「もともと人とは違うものや、変わったことをするのが好きなので、この作品に参加することができてよかった」と笑顔でまとめ、本作が彼女の女優キャリアにおける重要な1ページとなっていることを予感させた。

文/久保田和馬

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