“余命3か月”を生き続ける大林宣彦監督、力強くガンとの共生を宣言「あと30年は映画を作り続ける」
日本映画界を代表する名匠・大林宣彦監督の渾身の一作『花筐/HANAGATAMI』の公開初日舞台挨拶が12月16日、東京・有楽町スバル座で開催。大林監督を筆頭に、窪塚俊介、満島真之介、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子、村田雄浩、原雄次郎が登壇した。
本作は檀一雄の小説をもとに、大林がデビュー作『HOUSE/ハウス』(77)以前に執筆していた脚本を40年越しで映画化した青春群像劇。第二次大戦直前の佐賀県・唐津市を舞台に、ひとりの青年が猛々しい学友らに影響されながら青春を謳歌し、病を患う従妹に淡い恋心を抱きながらも、戦争の中に飲み込まれていく様を169分という壮大なスケールで活写する。
大林は、出演したキャスト全員を「自分の分身」だと形容。その代表格である主人公・俊彦を演じた窪塚は、実年齢が36歳でありながら17歳の役を好演。「いついかなる時代でも自分たちが自分たちらしく、自由に個性を持って生きていくことの大切さを再認識させてもらいました」と語った。
そんな彼に大林は「彼は主人公でもあり、語りべでもあり、最後には監督である私自身になってしまう」と振り返る。すると窪塚は、以前に大林から「年齢を訊かれたら18歳から80歳と答えなさい」と、自分が演じられる役の年齢を答えるように言われ、感銘を受けたエピソードを明かした。
また、大林から「映画の世界にいる幸せを存分に感じなさい。それだけでいい」という言葉をかけられたと明かす満島は「その言葉で、自分の中に重くのしかかっていた芝居への想いが、風とともに天に昇っていった」と振り返る。そして、“アポロンのような神話に出てくる役柄”を与えられた時に焦りを抱いたことも明かし、場内の笑いを誘った。
さらに、最近になって自身の祖父が米軍の軍人だったことを知った満島は「沖縄戦がなければこの世にいないということを感じている」と自分の出生を振り返りながら、戦争への心情を明かした。そんな彼に大林は「シナリオに書かれたことを超えて、自分が何故ここにいるのかを考えながら、身をもって証明してくれた」と賛辞を送った。
他にも、今回の役に挑むにあたり芸名を本名に戻した矢作、撮影のためにしばらく唐津に滞在したときのエピソードを振り返った門脇、大林映画の常連の村田や『この空の花〜長岡花火物語』(11)から3作続けての出演となる山崎に、前作『野のなななのか』(14)につづく出演となった常盤。そして、映画の舞台でもある唐津に生まれ、運命的に本作と巡り合った原。皆が一様に、大林とのエピソードを語り感謝を述べると、大林は穏やかな表情で未来を担う彼らに向けて温かいメッセージを贈った。
そんな大林は、本作のクランクイン直前に“余命3か月”と宣告されながらも、見事に本作を撮り上げた。「余命3か月から1年4か月過ごしました」と笑顔を見せた彼は「ガンになって学んだことは、ガンも生き物なんです」と語り、自らの体に住み着いた“宿子”であるガンに、“宿主”として「これからも一緒に30年生きよう」と語りかけた。
そして「ガンごときじゃ死なないぞ」と力強いコメントをし「世界が平和になるために、あと30年は映画を作りつづける」と宣言。『時をかける少女』(83)や『異人たちとの夏』(88)など、数多くの名作を生み出した大林の、熱い魂が込められた『花筐/HANAGATAMI』は、有楽町スバル座をはじめ全国で順次公開される。
取材・文/久保田和馬