本当は聴かせたくなかった!?坂本龍一が弦やガラス板で紡ぐ奇跡の音楽空間
2017年4月、NYにて観客100名という限られた空間で2日間、音楽家・坂本龍一のライブが行われた。ステージには蓋を取っ払ってしまったグランドピアノ。その脇には大きなガラス板。弦楽器の弓やバチ、音響彫刻も置かれている。ここで披露されたのは通常の演奏に留まらず、ピアノ内部の弦に金属棒を当てる、棒をガラス板でこするなど、様々な道具や方法で奏でる“音”による複雑な音楽。この希少なパフォーマンスが公開中の『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK : async』で上映されている。
シンクロから非シンクロ的な音楽への転換
英国アカデミー賞、米アカデミー賞、グラミー賞など数々の賞を受賞し、世界的音楽家として評価される坂本。2014年に中咽頭がんを患い、1年に及ぶ闘病生活を経て、2017年春に8年ぶりのオリジナルアルバム「async」をリリース。これまで映画音楽やテクノという“同期”(シンクロ)を前提とする楽曲を手掛けてきた彼が、このアルバムでは“音”そのものに向き合う“非同期的な音楽”を表現したという。
感じるままに奏でる“瞑想”的な音楽
アルバムのリリースを記念したライブでは「あまりに好きすぎて、誰にも聴かせたくなかった」と本人が語るほどの楽曲を、たった一人、感じるがままに演奏する。まるで魔術師のように、さまざまな道具を駆使し“音”を紡ぎ出し、普通ならノイズと見なされてしまうそれらを見事に音楽へ昇華させる。奇跡のような音楽空間は新鮮であると同時に、美しく神秘的。鑑賞後には興奮というよりも瞑想後のような静かな充実感が味わえる。
映画では、5.1chの音響と共に会場上部で流された映像インスタレーションが挿入され、あたかもライブ会場にいるかのような体験ができる。2月15日(木)開幕の第68回ベルリン国際映画祭に正式招待され“ベルリナーレ・スペシャル部門”での上映も決定した本作。世界のサカモトが辿り着いた実験的な音楽世界を劇場で体感してほしい。
文/トライワークス