『リバーズ・エッジ』『あみこ』など第68回ベルリン国際映画祭をにぎわせた日本映画を総ざらい!
現地時間24日に受賞作が発表された第68回ベルリン国際映画祭。この1週間、ベルリンをにぎわせた日本映画を現地からレポート。
革新的な視野と観る者に疑問を投げかける意欲作、問題作がひしめき合うパノラマ部門。『リバーズ・エッジ』がオープニング作品に選ばれ、行定勲監督と主演二階堂ふみ、吉沢亮がベルリン入りしたが、これが本年度の同部門評論家連盟賞を受賞。なんと7年前にも監督は『パレード』で同賞を獲得しており、連続2冠となった。「観客になにもかもを説明し、分かりやすい娯楽映画が主流をしめる日本の映画界で、僕は若い人に考えてもらいたい映画を作りたい」とベルリンで語った行定監督。その姿勢がまさにベルリン映画祭の評論家に暖かく受け止められたのだろう。
同じくパノラマ部門では黒沢清監督の『予兆 散歩する侵略者』も上映された。カンヌ国際映画祭でも上映された『散歩する侵略者』のスピン・オフ。「設定は同じだけれどまったく異なる物語を意図したテレビ・ドラマとして、そもそもは制作されたが、これを劇場版の映画にさらに発展させたのが映画『予兆 散歩する侵略者』だ」と監督は会見で語った。この日、おりしも大杉漣さんが他界したニュースを聞き、その悲しみと彼の俳優としての存在の重要性を海外の記者説明した。
一方新人の登竜門であるフォーラム部門で3本の個性的な作品がベルリンの観客を楽しませ、邦画の波を広げた。
ニューヨーク在住の想田和弘監督(47歳)の作品『港町』は白黒のドキュメンタリー映画だ。瀬戸内海に面した岡山県の牛窓という町に監督が単身乗り込み、老人社会と化したこの町にすむ数人の住民たちにカメラを向ける。彼らが村を語り、自分の人生を語る。飾り気のない言葉から、戦後日本を支えた世代の実像が浮き彫りにされ涙と感動を誘う。会場から熱い拍手が沸き起こった。
なんと20歳、監督デビュー作であり、生まれて初めて作った映画がベルリン映画祭に入ってしまい驚いているのは山中瑤子監督だ。長野県出身、日大芸術学部映画学科中退。大学では自由に自分が表現できないという壁にぶちあたり、自分で作った映画が『あみこ』。「脚本は途中まで書きましたが、後半は撮影しながら仲間と話し合い作り上げた。予期せぬ事が起きるというのが好きなんです」。あみこの中にちょっぴり自分も混じっていると語る監督。誰でも持っているカメラを回し友達と制作した。なんと予算は25万円。「上映終了後、ドイツの同世代の映像作家に話しかけられ予算がなくても映画が作れるんだと励まされた」と告白されたと言う。
武蔵野芸術大学をへて東京芸術大学院映像研究科へ進んだと言う清原惟監督はフランス映画や名作邦画を愛してやまない25歳。『わたしたちの家』は大学院修了作品として制作された。横須賀で見つけた、店舗兼住居がわたしたちの家の主役(?)ここに母一人娘一人の母子家庭と、記憶を失った女性とその彼女に居を提供する女性、この二人の女性二組の生活を、平行して決して出会わない平行空間(パラレルワールド)として描く。SFでもあり家族ドラマであり、スリラーの要素もある斬新かつ独創的なひらめきを映画。「ドイツにたまたまいるわけですが、実はバッハの音楽が好きで、別個の旋律が平行しながらメロディーを奏でる点に発想をえた」と舞台で語った。二人の若い女性監督、今年のベルリンを機に、世界に飛躍してほしい。
また青少年の映画文化を奨励するジェネレーション部門では、佐渡ロケで撮影された富永哲也監督の『Bleu Wind Blows』が上映された。父親が行方不明になった少年と、虐めに耐える少女を、佐渡の景色を背景に描く詩的な旋律を奏でる映像。子供たち、監督と主演内田也哉子さんもベルリン入りした。
取材・文/高野裕子