アカデミー賞受賞作が配信中!ドーピングに揺れるスポーツ界へ警鐘を鳴らすドキュメンタリー『イカロス』
人種差別や性差別、そしてLGBTQなどあらゆるテーマが入り混じった今年のアカデミー賞。数ある部門の中で最も“現実”を描くことが求められるドキュメンタリー部門に輝いたNetflixオリジナル作品『イカロス』もまた、実にタイムリーな事柄にフォーカスを当てた作品だ。
つい先日、韓国・平昌で行われていた冬季オリンピックにおいて、ロシア選手団が競技に参加できないことが大きな話題となった。その原因は、ロシアが国家ぐるみで大規模なドーピング隠蔽を行なっていたということが発覚したからに他ならない。
本作はアマチュア自転車選手で映画監督のライアン・フォーゲルが、スポーツ界に長年横たわるドーピング問題を調査するため、自ら禁止薬物を摂取した上でアマチュア自転車競技大会に出場。いかにしてその厳しいドーピング検査を潜り抜けることができるのかを証明しようというもの。
劇中でフォーゲルが協力を依頼し親しい間柄になるのは、ロシアのドーピング検査機関の元所長、グリゴリー・ロドチェンコフ博士。フォーゲルとの実験の最中である映画中盤、突如として発覚するソチ五輪で行われたドーピング隠蔽の事実。そしてロドチェンコフは国際スポーツ界を揺るがす大スキャンダルの告発者として、祖国ロシアから命を狙われるようになる。
本作の制作を始めた当初、フォーゲルはこのような事態に発展することなど予期してはいなかったであろう。ドーピングという、長年にわたりスポーツ界に蔓延していたチート行為について問題提起をするだけに留まるはずだったこの作品は、期せずして極めて重要なテーマを扱う作品へと様変わりしたのだ。
授賞式でフォーゲルは「この映画がロシアに目を覚ますきっかけとなってくれることを願っています」と、ひとりのスポーツ選手としての願いを語ったのち「何よりも真実を伝えることの重要性を痛感しました」と、ひとりのドキュメンタリー作家として“現実”に向き合う覚悟を明かした。
平昌オリンピックが閉幕し、IOC(国際オリンピック委員会)からロシアの出場資格停止処分が解除されたとはいえ、完全なる解決の糸口が見えないドーピング問題。すでにNetflixで独占配信中の本作を観て、改めてその問題について考えてみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬