ウルトラマンが“お母さん”世代にも刺さる理由とは?坂本浩一監督が作品へ込めた情熱
2017年7月から放送の「ウルトラマン」シリーズ最新作「ウルトラマンジード」。その映画『劇場版 ウルトラマンジード つなぐぜ! 願い!!』(公開中)でテレビシリーズに続き監督を務めたのは、「仮面ライダー」「スーパー戦隊」シリーズでもメガホンを取った坂本浩一。子どもたちだけではなく、その親世代も一緒に楽しめる作品として仕上がった本作に込めた、監督の思いを語ってもらった。
舞台としてベストチョイスだった沖縄
劇場版の舞台は沖縄。物語、そして作品のテーマと深くリンクするこの地の描かれ方が本作の大きな魅力となっている。「劇場版としてスケールアップさせるためにリサーチを進める中で、沖縄は『ウルトラマン』に対しての理解度が高く、ロケにも協力的ということで舞台になりました。沖縄は自然や史跡も多く魅力的でミステリアスな土地でもあり、準備段階から現地に伝わる神話や伝説を絡めていくと、映画としても大きなプラスになるのでは?と思ったのも大きかったです」
沖縄が舞台に決まった時点で、脚本家と現地の伝説や民話を調べると興味深い発見に辿り着く。「『神が空から降りてきて、沖縄を創造した』という伝説など、それは宇宙人とつながっているのでは?と思えるものがいくつかあったんです。今作の重要な“赤き鋼”も、かつて沖縄にはなんでも切り裂ける刀があったという話がモチーフです。そうした沖縄の伝説や民話を軸にウルトラの世界に合わせることで、神秘性だけでなく信憑性を持たせることができ、ファンタジー要素以外の重みも出せる。そういう意味では沖縄というロケーションはベストチョイスだと思いました」
少年の成長には“お姉さん”が不可欠?
沖縄を舞台に描かれるのは、TVシリーズで“悪のウルトラマンの息子でありながら、正義のヒーローとして戦う”従来のウルトラ作品にはない成長を経て来た主人公、朝倉リク(濱田龍臣)のその後の物語。少年の成長物語の先にあるものを、監督はどのような視点で見せようとしたのか?「テレビシリーズでは、リクがウルトラマンとして認められる一つのゴールを描きました。今回は“ヒーローになったその先にはなにがあるのか”を描ければと考えたんです」
このテーマを描くことで、世代を超えた関心を呼び起こすこともねらっていた。「スポーツ選手がオリンピックで金メダルを取ったあとになにを目指すのか?子どもが大人になった時にどんな問題に直面するのか?そういう、誰もが経験するであろう、自分がゴールだと思った場所に行き着いた時に突き当たる大きな壁をテーマにしています。成長物語としての葛藤を描くのは、親子を通じても共通の話題でもあるので、テレビシリーズを見て下さっていれば、より興味深く感じてもらえるでしょうし、映画から『ウルトラマンジード』に触れる方がここから観ても楽しんでもらえるものになっているかなと思っています」
そのリクに大きな影響を与えるのが今作でのヒロイン、本仮屋ユイカ演じる比嘉愛琉。TVシリーズにはリクと同世代のライハ(山本千尋)やモア(長谷川眞優)といったヒロインが登場したが、彼女たちとは違う世代の“年上の女性”には少年の成長物語に欠かせない思いが込められていた。「劇場版では大人の魅力を持つ女性を出したい思いがあったんです。幼馴染みのドジっ子お姉さんのモア、パートナーであり良き友でもあるライハは、リクにとって仲間ではあっても憧れの女性ではないんです。男の子なら誰でも子どものころ、年上の女性への憧れを抱いていたと思いますし、アニメでもそうしたキャラクターはよく登場しますよね」
「銀河鉄道999」のメーテルなどを例に挙げながら語る監督はさらに続ける。「特にリクの場合はベリアルという悪のウルトラマンであるお父さんとの物語はありましたが、男の子が最初に憧れるお母さんという存在がなく育ってきたので、年上の女性が現われることで、彼の中で今までとは違う気持ちの動きが描けるのではないかと考えました。愛琉は、自分よりも歳が離れた年上の優しく包んでくれる女性でもあり、芯の強さも持っている。彼女との関わりは、リクをヒーローとしてさらに成長をさせる刺激になるだろうと思ったわけです」
キャラクターを魅せる演出へのこだわり
キャラクタードラマのこだわりに加え、スタントマン出身でアクションへも強いこだわりを持つ坂本監督は、TVシリーズにはなかった各キャラクターのアクションシーンも用意。生身のキャラクターによるアクションも大きな見せ場となった。「各自のキャラクターをセリフや表情だけでなくアクションの違いで見せたい思いがありまして。今回は中盤に登場する宇宙人がたむろする酒場でのアクションシーンでは、そうした思いを踏まえて観てもらえれば、『この人はこういう人なんだよ』というのが判る作りにしているんです。リクはガムシャラに、ライハは拳法でスマートに、ジャグラス ジャグラー(青柳尊哉)とレイト(小澤雄太)は2人が絡みながら、おもしろおかしく戦うんですが、そこに本人たちの性格を出すようにしました。見せ場としてただ楽しむというよりは、キャラクターをより深く理解するためのアクションシーンを用意したかったということですね」
ゲスト出演の前作「ウルトラマンオーブ」のキャラクターへのフィーチャーにも余念がない。「クレナイ ガイ(石黒英雄)とジャグラス ジャグラーの魅力を余すことなく描こうと思いました。特にガイは頼りになる先輩であり、ぱっと現われて問題を解決するさまは昭和のヒーローっぽくて、僕自身すごく親近感がある存在だったので楽しみながら演出しています。ガイとリクの対比も面白いですし、2人が協力するところがやはり燃えるポイントになっていますね」
キャリアにおける運命の巡り会わせ的作品
これらの物語的な要素に加え、本作には監督が手掛けた『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(09)から連綿と連なるキャラクターに関しても深い思いが込められている。「『~ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』は(アメリカを拠点としていた)僕が初めて日本で監督した作品で、あの作品を作るために日本に戻って来たんです。そこで初登場したゼロとベリアルというウルトラマンは、登場からもうすぐ10年が経とうとしているんですが未だに人気があって、さらにベリアルの息子の物語『ウルトラマンジード』が作られて、そのメイン監督して受け持つことができたのはとても嬉しいことでしたね。そして、ベリアルに関してもテレビシリーズでひと通りの終止符を打つことができた。それは、すごく運命的な巡り合わせを感じますし、だからこそ『ウルトラマンジード』は自分の息子のような、思い入れの強い作品でもあるんです」
最後に監督は父子2世代だけでなく、子どもと一緒に作品に触れた“お母さん”層にも映画を観てほしいと語る。「いままでのウルトラ作品ファン、『ウルトラマンオーブ』『ウルトラマンジード』を観てきたファンは純粋に楽しめると思います。そんな中で、僕としてはヒロインの描き方にはこだわっているので、お母さん方に息子さんと一緒に観て貰いたい思いがあるんです。お父さんや子どもたちはウルトラマンの格好良さが好きだとは思いますが、お母さんはなかなかそこには結びつかない。でも、今回の作品では愛琉と同じ目線に立っていただいて、リクの成長を見守るというところで楽しむことができると思います。ぜひご家族で観ていただければと思います」
取材・文/石井誠