小松菜奈の“ひたむきさ”、大泉洋の“包容力”。映画『恋雨』ができるまでの道のりとは?
小松菜奈と大泉洋が、累計発行部数200万部を突破する人気コミックの映画化『恋は雨上がりのように』(5月25日公開)で初共演を果たした。夢を失った17歳の女子高生と、夢を諦めかけていた45歳の中年男性の出会いをつづる本作。撮影を振り返ってもらうと、「大泉さんに救われた」と小松。小松の“ひたむきさ”と大泉の“包容力”にあふれたひとときが、映画『恋雨』の輝きとなってスクリーンに映しだされた。
陸上選手の夢を断たれた高校2年生のあきらが、ファミレス店長・近藤に密かな恋心を抱く姿を描く本作。小松は「私の周りにもたくさんファンがいる原作でしたし、やはり原作ものはよりプレッシャーがあります」と人気原作に挑む心境を明かす。「自分にしかできないあきらを演じたいと思いました」と強い眼差しを見せるが、彼女の女優としての覚悟には“母からもらった言葉”が大きく影響しているという。
「昔から母に『あなたの代わりはたくさんいるよ。だから自分らしさを出してがんばろう』とよく言われていたんです。自分よりうまく演じられる人はたくさんいると思うけれど、それでも『小松菜奈だから観てみたい』と思ってもらえる存在になりたい。自分にしか出せない味ってすごく大事だと思っています」と“自分らしさ”をテーマに女優業に励んでいると話す。
大泉は「冴えないおじさん役はよくやっていますが、女子高生に片想いされるような役はやったことがありません。役者としては非常におもしろそうだなと思える作品でした」と新境地への思いを吐露。原作を読み「菜奈ちゃんは、あきら役にピッタリだと思った。目力もすごく似ている。あきらも、内面を知るまではちょっと怖いようなイメージがあるでしょう?菜奈ちゃんもこれまでやっている役の影響か、こうして話してみるまではちょっとクールなイメージがありましたからね」とキャスティングのハマり度に惚れ惚れ。
しかし当の小松は「あきらがなかなかつかめなくて悩んでいた。なぜ店長のことを好きになったのかなど、あきらの気持ちがあまりわからなかった」のだそう。特に苦労したのが、風邪を引いた近藤をあきらが見舞うシーン。「あきらの気持ちになってお芝居したいなと思っていたので、どこか自分で納得できないところがあって、なかなか気持ちが追いつかなくて。待たせてしまっている周りの方々にも申し訳なくて、余計に焦ってしまって」と行き詰まってしまったという。
そんな時、助けになったのが大泉の存在。小松は「大泉さんが『ちょっと休憩しよう』と言ってくださって。その時に『あきらはこういう想いでここに来たんだよね』など、これまでのあきらの心情を一緒に辿ってくれたんです。大泉さんに救われて、また頑張ろうと思えました」。
大泉は「彼女がやろうとしているのは、ものすごく難しいシーンだということはみんなわかっていて。本人としては『待たせてしまっている』と辛い思いをしているんだろうなと…」と振り返り、「OKが出そうなお芝居で逃げてしまう人もいると思うんですよ。でも彼女は、そういうことを決してしない。かっこいいなと思いましたよ。撮り終わった時には、待っただけあるすばらしいシーンに仕上がっていましたから。改めてすごい役者さんだなと思いました。負けず嫌いですからね。『逃げない!』という感じがしますよね」と小松のまっすぐさに感動したという。
小松は「はい、負けず嫌いです」と照れ笑い。「クライマックスの土手のシーンでは、自然とあきらの気持ちになれることができ、リハーサルから涙が止まりませんでした。あきらが店長のことをすごく好きで、愛おしいと思っている気持ちがわかる気がして。演じていくなかで、あきらと気持ちが通じ合うことができました」と近藤があきらを優しく見守ったように、大泉の支えがあったからこそ「あきらになれた」としみじみと語る。
10代と40代、それぞれの青春を描く本作だが、小松と大泉はいままさに“青春真っ只中”にいる様子。大泉は「10代はやりたいことが見つかっていませんでしたからね。モテ期も小学校で終わってしまったから、あまり10代には戻りたくないかもしれない(笑)。10代のころは、やりたいことなんて自分には見つからないんじゃないかと思っていた。大学に入って演劇に出会ってから、燃えるもの、打ち込めるものができて、充実していたような気がします。それをそのまま仕事にしてしまったんだから、本当に僕は恵まれている」と演劇に出会ったことで、走る道を見つけることができたという。「それまでは友だちしか笑わせていなかったけれど、自分のことを知らない人の前でなにができるのかやってみたいと思ったんです」。
前述の言葉からもわかるように、女優として突き進む強い覚悟を感じる小松は「18、19歳の時は20代になりたくないと思っていたんです」と告白。「でも20代を迎えてみたら、いまのほうがずっと楽しい!やりたいこと、やれることも増えてきて、幅も広がったように思います。30代、40代もすごく楽しみです」と“生涯青春”宣言。その笑顔からも充実ぶりが伺えるが、大泉は「そうそう!年をとることって楽しいんだよね。でも体はキツイよ(笑)」とポツリ。走ろうと思えば、いつだって青春を迎えられる。小松菜奈と大泉洋の清々しい姿は、『恋は雨上がりのように』の放つ魅力そのものに感じた。
取材・文/成田 おり枝