『君が君で君だ』の池松壮亮、30代に向けて語る危機感と希望
主演映画『君が君で君だ』(7月7日公開)で、伝説のロックシンガー・尾崎豊になりきる男に扮した池松壮亮。『ラスト サムライ』(03)で鮮烈な映画デビューを果たしてから15年が経ったが、主演でも脇役でも与えられた役柄をきちんと咀嚼して演じ、物語に溶け込んできた。7月9日に28歳となる池松は、俳優としてますます攻めの姿勢を取っている。池松に単独インタビューし、いまの心境を語ってもらった。
今年は主演ドラマ「宮本から君へ」が放映され、映画では第71回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞作『万引き家族』(公開中)と本作のほか、木村大作監督作『散り椿』(9月28日公開)、塚本晋也監督作『斬、』(11月24日公開)と2本の時代劇が続く。
『君が君で君だ』は、池松と親交の深い松居大悟監督の作品だ。池松が「狂った純愛映画。“やばい人たちのテラスハウス”みたいな映画」と表現するように、かなり突飛でデンジャラスな異色作となった。
本作は、池松、満島真之介、大倉孝二が演じる3人の男が、心から惚れ込んだ女性ソン(キム・コッピ)のために自分の名前を捨て去り、彼女が大好きな尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬になり切る。3人はソンが住む部屋が見えるアパートを借り、10年にわたり彼女を密かに見守っていく。
ドン引きするような設定だが、池松ら実力派俳優たちの熱量と、ソン役のキム・コッピの魅力にかかれば説得力は十分感じられる。池松はキム・コッピについて「すごく明るくてフラットでしなやかで、日本の女優さんとは違うエネルギーのあるすばらしい女優さん。日本の一番強い酒をもってしてもかなわないテキーラみたいな方でした」と絶賛する。
一方通行な愛に暴走し、ソンに身も心も捧げた3人の男たち。松居監督による破綻スレスレの純愛は、気がつけば「人はどこまで無償の愛を捧げられるのか?」という高尚なテーマへと昇華されていく。「2時間でどれだけ純度を高め、どれだけ強度のある映画にするのか、また、最終的に“純粋なる狂気”へともっていけるのかをずっと探っていきました」。
どちらかといえば、俳優というよりも監督のように作品を俯瞰で捉えている池松。それは大学で4年間、映画監督を目指すコースを選考していたからだろうか?
「大学で学ぶことはテクニカルなことばかりで、映画を捉える視点を誰かに教わった記憶はないですが、10代のころからなんとなくこういう感覚は持っていました。でも、僕自身は監督目線で映画を観ているつもりはないです。ただ、経験を積み、突き詰めれば突き詰めるほど、俯瞰で見ることが身についていく気がします。そこを自分の長所とも思っていなくて、僕はただそう解釈し、いただいた役を掘り下げていくことしかできないんです」。
今回、松居監督と組めて本当に良かったと言う池松。「監督にはいろんなタイプの方がいて、松居さんはおそらく多作なほうだと思います。これまでずっと若いころの原風景を撮ってきたなかで、ご自身の表現を掘り下げていき、生まれたのが本作ではないかと。そういう意味で、僕は今回すごくいいタイミングで参加できたと思っています。松居さんは平成という時代を活写する監督としてやってきて、本作がきっと平成最後の作品になったでしょうし」。
1990年、平成2年生まれの池松は、平成という時代にコンプレックスもあるようだ。「僕たち平成生まれは、バブルや尾崎豊など、昭和時代の残骸を受けて育ってきました。日本映画も80年~90年代は勢いがすごかった。僕は平成という時代しか知らないので、いつか『平成ってどういう時代だった?』と聞かれそうで怖かったんです。そんななかで『万引き家族』がパルムドールを受賞したことは本当にうれしかったです」。
実際、『万引き家族』の舞台挨拶に登壇した池松が、満面の笑みを是枝裕和監督に向けていたのは印象的だった。
「僕は1、2シーンくらいしか関わってないんですが、ものすごくうれしかったです。パルムドール受賞は日本映画界にとってもとんでもない起爆剤になったはずなんです。まさか自分が生きている間に、日本映画がパルムドールを獲るなんてことはありえないと思っていたので、本当に是枝さんに感謝したし、平成という時代の最後に、とんでもないお土産をもらったような気がしました」。
是枝監督は次の作品をフランスで撮影する予定で、池松を“同志”だと言い続けている『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)の石井裕也監督も、今後海外に進出することを公言している。池松自身も視野を広く持っているが「自分が海外に行きたいからという理由ではなく、やはり僕にとって最初の映画が『ラスト サムライ』だったことが大きかったのかもしれないです」と述懐。
「それ以降、日本映画に関わり、特に20代で経験した作品では『なぜこんなところで酔いしれることができるんだろう』と、よく思っていました。世界的に見れば、自国のマーケットだけで映画を成立させている国なんてほぼないのに、こんな小さな島国でそれをやっていること自体はすごいと思います。でも、そのトップを並べても世界には敵わないわけで、そういう有り様が耐えられなくなり、ある時期からその危機感を抱くようになりました。それって俳優が思うべきじゃないのかもしれないですけど」。
池松は俳優として、これからの新時代に希望を抱いている。「平成が終わり、自分が30歳になったとき、なにをすればいいんだろうと、僕はずっと20代で考えてきましたが、よりグローバリズムを目指したいなと。そうすることでなにかを殺すことになるかもしれないけど、僕はいい傾向だと思っています。本当に純粋な力で表現を獲得する時代がようやく来るのではないかと。僕は勝手にそう信じています」。
取材・文/山崎 伸子