桜井ユキと高橋一生による極上のラブシーンはどう生まれた?二宮健監督が語る舞台裏|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
桜井ユキと高橋一生による極上のラブシーンはどう生まれた?二宮健監督が語る舞台裏

インタビュー

桜井ユキと高橋一生による極上のラブシーンはどう生まれた?二宮健監督が語る舞台裏

『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』の二宮健監督を直撃
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』の二宮健監督を直撃

桜井ユキと高橋一生が魂で惹かれ合う恋人たちを演じた映画『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・ オブ・スリーピング ビューティ』のブルーレイ&DVDが、7月18日にリリースされた。エッジの利いた本作で、25歳にして商業映画監督デビューを果たした新鋭監督・二宮健を直撃。

『SLUM-POLIS』(15)などの自主映画で注目されてきた二宮監督。中学時代から撮り始めた映画はすでに40本を超えている。『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・ オブ・スリーピング ビューティ』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015で審査員特別賞を受賞した『眠れる美女の限界』(14)をセルフリメイクした意欲作だ。

女優を夢見て上京したものの、いまはサーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働く29歳のオリアアキ(桜井ユキ)が、ステージ上で催眠術にかかるふりをするうちに、妄想の世界に入っていく。高橋一生は、アキの雇い主で、やがて恋人となるカイト役を演じた。

特筆すべきなのは、“スポットライト理論”という「時間は流れておらず、過去も現在も未来もすべて同じ空間の中で同時に存在している」という斬新な定義を取り入れたストーリーテリングだ。本作は現実と夢、妄想の境界線だけではなく、時間軸の原理すら取っ払ったなかで展開される物語だが、決して荒唐無稽ではなく、アキの揺れ動く心情に寄り添い、気がつけば琴線が揺さぶられていく。

いまはサーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働くアキ
いまはサーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働くアキ[c]2017 KingRecords

二宮監督はスポットライト理論について「突拍子もない物の捉え方がすごく好き」だと話す。「映画は時間芸術で、時間を操作できる。小説や漫画、音楽で表現するのは難しい世界観だけど、映画でならやる価値がある理論だなと思いました」。

主演の桜井と、相手役を務めた高橋とは、撮影前にかなりディスカッションをして信頼関係を築いたようだ。「桜井さんは映画初主演作で大変なシーンも多かったのですが、覚悟を決めて臨んでくれました。一生さんも含め、2人とも役柄とシンクロする要素が多かったみたいです。一生さんについては、彼自身の死生観や、これまでどんなふうに生きてきたのかという話を包み隠さず話してくれました。だからこそ、劇中のカイトが、役柄のカイトなのか、それとも一生さん本人なのか、よくわからない部分がいくつかありました」。

アキとカイトは運命的な出会いを果たし、お互いの孤独を埋め合うように心から慈しみ合っていく。特にビルの屋上で愛を求め合うシーンの熱量がすさまじい。桜井と高橋が表現した“愛し方”は官能的という表現の域を超え、美しくも気高いものとなった。

【写真を見る】桜井ユキと高橋一生のロマンティックなラブシーン
【写真を見る】桜井ユキと高橋一生のロマンティックなラブシーン[c]2017 KingRecords

二宮監督が目指したのは、登場人物の感情に寄り添ったラブシーンだ。「“濡れ場”がつくキャッチコピーが好きな日本映画に対し『いや、ちょっと待て。こういう濡れ場もあるぞ』というものを提示したかったんです。それを若手とカテゴライズされる僕のような立場の監督がやることに意味があると思いました」。

濡れ場を撮るにあたり、桜井や高橋、スタッフ陣には「決していやらしいものを撮る気はないです」と説明したそうだ。「『アキにとってカイトとのひと時は、甘くてロマンティックな時間、まるで宝物のような時間を描きたい』と言いました。その一方で、お互いを包み隠さず、さらけ出し合い、嘘のない『とても愛おしい時間だった』と感じられるシーンにしたいと説明しました」。

さらに二宮監督は、ラブシーンについて「男性的な目線を排除することを心がけました」と明かした。「女性にやさしい描写が多いのではないでしょうか。相手を求めるメカニズムは男女で違うのかなと、思ったりすることがあって。今までの日本の映画のなかで描かれてきたラブシーンの趣として、男性は自尊心を埋めるために女性を虐げるような描写が多かったと思うんです。でも、女性は自分のいまの寂しさや焦燥感を、その人と交わることで満たす喜びに対してストイックで献身的で、時には心中してもいいくらいの気持ちでいるのではないかと。そういった覚悟が違う気がして。あくまでも僕の憶測の中の自論ですが」。

ビルの屋上で愛を求め合うアキとカイト
ビルの屋上で愛を求め合うアキとカイト[c]2017 KingRecords

本作が高く評価され、今後、岡崎京子の人気コミックの実写映画化『チワワちゃん』(19年公開予定)も待機中の二宮監督。劇場用映画2作をすでに撮り終えたいま、インディーズ時代に比べ、監督としてのモチベーションに変化はあったのだろうか?

「まったく変わらないです。インディーズのころから作るなら『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といった自分が面白いという最上級の敬意を込めている作品よりもおもしろい映画を作らなければという思いでやってきたので。むしろインディーズのころのほうが誇り高くできていたことがあるのかもしれない。でも商業映画は、人に説明しやすいというメリットがある。ただし、海外に出たらそれも関係なくなりますから。常に世界水準の眼差しで1本の映画を見つめないと大事なものを見失ってしまう。日本は島国だから、余計にそうなってしまいがちなので、冷静な目を持たなきゃいけないなと思っています」。

『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』のBlu-ray&DVD は7月18日より発売
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』のBlu-ray&DVD は7月18日より発売[c]2017 KingRecords

二宮監督は、作りたい作品のハードルが年々上がっているという。「敢えてそういうものを自分に課していますが、それも節度を踏まえないと自分の首を締めることになってしまう。自分が求めているものと、世間が求めているものが離れすぎても意味がないし、かといって甘えてしまったら堕落してしまう。そういう意味で、映画を観るお客さんのリテラシーを上げていくことも大事だし、なによりもそういう映画作りをしていかないといけないなとも思っています」。

作り手としての広い視野を持つ二宮健監督は頼もしい限り。今後も、ますますアグレッシブに攻め続けていってほしい。

取材・文/山崎 伸子

『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』
Blu-ray&DVD 発売中
発売・販売元: キングレコード
Blu-ray:4800円 +税 DVD:3800円 +税

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