トム・クルーズも騙し騙される!?『M:I 6』が魅せる“スパイ映画”の爽快感
全米でシリーズ最高のオープニング興収を叩き出し、すでに興行収入は2億ドルを突破。シリーズ新記録更新も目前に迫っている『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』が日本でも大ヒット公開中だ。例年にも増して活気にあふれた今年の夏休み興行で、ひときわ存在感を発揮した本作の魅力を改めて確認したい。
公開前から大きな話題を集めていたのは、シリーズを通しておなじみとなっているトム・クルーズの命がけの激しいスタントシーンの数々。高度7000メートルから高速落下するヘイロージャンプや、自ら訓練を重ねて臨んだヘリコプターでのチェイス。そして撮影中に骨折してしまったビルジャンプと、その復帰直後に撮影された断崖絶壁でのアクションなど、いずれもシリーズ最高レベルの難易度を誇るスリリングなアクションの連続に、自然と目を奪われてしまうことだろう。
しかし、本作の見どころはそれだけではない。元をたどればこの「ミッション:インポッシブル」シリーズは、60年代に一世を風靡したドラマ「スパイ大作戦」を原点にしている。ストーリーやキャラクターに関してはオリジナルとして構築されているとはいえ、同作の生みの親であるブルース・ゲラーの名前が1作も欠かすことなく「原作」としてクレジットされていることからもわかるように、脈々と受け継がれているマインドが健在。いわば、「スパイ」という娯楽性の強いジャンルの王道を貫徹しているのだ。
たとえば本作でも、イーサン・ハントに指令を言い渡して自動消滅するレコーダーや、変装のためのマスクなど、誰もが胸躍らせるであろうスパイガジェットが数多く登場する。古典的でありながらも、いまの時代に即したハイテクさを備えたそれらは、作品を追うごとに進化を遂げているが、その内面に込められたツールとしての個性や、それがストーリー全体にもたらす役割のシンプルさは変わることはない。
さらに手に汗握るトイレでの格闘シーンや、敵か味方かわからないミステリアスな新キャラクターの登場に、天才的なスパイ、イーサンの度肝を抜く活躍を全力で支える仲間たちの姿。そして何といっても、高度な知能戦の数々に驚かされずにはいられない。あらゆるトリックを駆使して、敵はおろか観客さえも欺く騙し合いの連続に、スパイ映画の醍醐味を堪能できることだろう。もっぱら「スパイ」という一ジャンルの中には、アクションからサスペンス、ドラマやロマンスに加え、ちょっとばかりのSF的な要素など、あらゆる映画のジャンルが凝縮されているということだ。
そんな贅沢な魅力を携えた本作をより一層輝かせているのは、シリーズ最長の上映時間さえも感じさせないほど濃密に展開するストーリーだ。この「ミッション:インポッシブル」シリーズの最大の特徴は、シリーズ作品でありながら、ひとつひとつの作品が独立して展開していくこと。それを可能にしてきたのは、第1作のブライアン・デ・パルマにはじまり、ジョン・ウーやJ・J・エイブラムス、ブラッド・バードと、毎回異なる監督がメガホンをとってきたからにほかならない。
しかし本作は、前作『ローグ・ネイション』(15)でメガホンをとったクリストファー・マッカリー監督がシリーズで初めて続投。宿敵ソロモン・レーンをはじめ、イルサやアラン・ハンリーなど前作に登場したキャラクターが引き続き登場するだけでなく、3作目と4作目に登場したイーサン・ハントの妻ジュリアが物語の重要な役目を担う。そのように、これまでのシリーズ作を振り返っても珍しい「過去作との密接なリンク」を持つ本作ではあるが、それでも“独立”した作品であるというスタンスは一切崩さない。
先日来日を果たしたマッカリー監督はインタビューで「ファンは毎回違う監督だということを楽しみにしているので、完全に違う監督として戻ってきたかった」と語り「続編というつもりを持たず、トムがやりたいことと僕自身がやりたいことに徹した」と明かす。前述した登場人物たちの再登板は、あくまでもその“やりたいこと”のひとつに過ぎず、劇中での彼らについての説明を必要最低限に留めながら、まったく新しい映画として展開していくのだ。
マッカリー監督といえば“どんでん返し”映画の代表格として人気を誇る『ユージュアル・サスペクツ』(95)でアカデミー賞脚本賞を受賞し、ドイツを舞台にした作品で英語をしゃべるという定番の違和感を冒頭から合理的にねじ伏せた『ワルキューレ』(08)など、その卓越した発想はつねに観客を驚かせ続けてきた。そんな彼のストーリーライターとしての手腕は本作でも遺憾なく発揮されており、二転三転する攻防に驚愕のトリック。観客を画面に釘付けにさせる激しいアクションを見せたかと思うと、先入観や想像の数歩先を行くサスペンスで心を掴んで離さない。天才脚本家の“本気”を伺うことができよう。
もし怒涛のスタントアクションで本作の魅力に取り憑かれたという人は、もう一度劇場に足を運び、そのストーリテリングの緻密さにより醸し出される“スパイ映画”の爽快感を味わってほしい。そして、まだこのシリーズに触れたことがないという人や、近作を観ていなかったという人は、本作を観てから過去作へと遡って観ていくのもいいだろう。すでに1作目の公開から22年が経ったとはいえ、まだまだ続く可能性を秘めた「ミッション:インポッシブル」シリーズ。いまから乗るのも決して遅くはないはずだ。
文/久保田 和馬