オカルトなら彼らに聞け!都市ボーイズが語る『アンダー・ザ・シルバーレイク』の見どころとは
奇抜なストーリーテリングで映画ファンをうならせたホラー映画『イット・フォローズ』(14)のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が新たに手掛けたネオノワール・サスペンス『アンダー・ザ・シルバーレイク』(10月13日公開)。サブカルチャーから、暗号解読、都市伝説、サブリミナルまで、脳を刺激するような要素が多数ちりばめられた本作だが、前知識を入れておけば、おもしろさが数倍膨らみそう。
そこで、都市伝説やオカルトにまつわるトークを様々なメディアで配信している若手放送作家コンビ、都市ボーイズの岸本誠と早瀬康広に本作をいち早く観てもらい、見どころや注目ポイントについて解説してもらった。
――お2人とも『イット・フォローズ』も観ているそうですが、『アンダー・ザ・シルバーレイク』はいかがでしたか?
岸本「『イット・フォローズ』のようなホラーをイメージしていたのですが、かなり都市伝説や陰謀論に寄せていて、まったく違う監督が撮っているような印象を受けました。全体的なトーンはデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』っぽくって、しかもそのテイストの取り入れ方がとても上手いので、映画ファンに受けるだろうなと思いました 」
早瀬「本作には見る人が見ないとわからない暗号や都市伝説がたくさん出てきますが、観終わったあとに、『謎になっている部分について調べてみよう!』と、都市伝説に興味を持つきっかけになるんじゃないかとも思いました。監督の“都市伝説愛”が伝わってくる作品なので、普段から追いかけている僕らとしてはとっても好印象でした」
岸本「謎解きや陰謀論をモチーフにした映画でいうと、『ダ・ヴィンチ・コード』などは、それらをスタイリッシュに見せていましたが、それに比べ本作の謎解きパートの泥臭さは本当にリアルだなと」
早瀬「『ダヴィンチ・コード』のように閃きによって謎が解けるのではなく、ああでもないこうでもないと試行錯誤していく感じが生々しかったですね。本作のように女の子をストーキングして都市伝説を解明していくなんて泥臭さ、映画ではなかなかないですからね(笑)」
岸本「あと、母親には電話で『仕事は絶好調だよ!』と嘘をつきながら、都市伝説を追いかけている主人公のダメ男っぷりにも感情移入しちゃいましたね」
早瀬「あれは、あるあるですね。僕も先日、同窓会に行った時、友達に『昨日なにしてたの?』と聞かれて、思わず『台本書いてたよ』と答えちゃいました。本当は、山の中で天狗を探していたんですが…(笑)」
――有名になるという夢を持った人たちが集まるLAが舞台なので、本作はヒッチコックとデヴィッド・リンチを融合させた“悪夢版『ラ・ラ・ランド』”とも言われています。
岸本「主人公がカート・コバーンを崇拝している感じで、部屋にはポスターも貼られていました。ギターやアンプがあったので、おそらく彼もアーティストを目指してシルバーレイクに出てきたものの、挫折したんじゃないかなと。本作にはたくさんアーティストが登場しますが、なかでもカート・コバーンがどういう人だったのかを知っておくと良いと思います」
早瀬「音楽業界を牛耳る男がいるという都市伝説もよく聞きます。ものすごい敏腕プロデューサー、すなわち“悪魔”に魂を売る代わりに曲が売れる、みたいな。噂の出どころは、ロバート・ジョンソンというブルースマンで、彼は短期間でギターが上達した理由について『交差点で悪魔と契約した』と言っていたそうです」
――特に気になった都市伝説はありましたか?
早瀬「僕は秘密結社の“フクロウのキス”ですね。フクロウはいまでこそ“知恵の神の従者”とされていますが、かつてはアメリカの先住民に不気味な生き物や死の象徴として捉えられていたという話もあります」
岸本「『ダ・ヴィンチ・コード』に登場する秘密結社“イルミナティ”のシンボルもフクロウなんです。実際に1ドル札にはフクロウに見える模様が隠されています。そのように、本作には実在する都市伝説と、オリジナルで作ったものが混ざって出てきていて、そのバランスもおもしろかったですね」
早瀬「冒頭から登場する“犬殺し”も、アメリカでは有名な都市伝説です。犬は人間にとって身近な動物なので、都市伝説に登場することが多いんです」
岸本「実際に犬や猫が死ぬ場所ってけっこうあって、そこは連続殺人犯が出没する場所だったりするんです。殺人犯が殺人にいたる道中で、犬や猫を殺していることが多いということで、そういった噂が都市伝説化することがあります。また、サブリミナル広告関連のネタもたくさん登場しますが、ヒロインが飼っている犬の名前にも注目してほしいですね」
早瀬「あと、本作に出てくる数字はすごく印象に残りました。お母さんのお気に入りの映画が『第七天国』だったり、劇中で殺される大富豪の名前が“セブンス”で、しかも家族が7人家族だったりと、観ている側が勝手に数字に引っ張られていく感じがありました」
岸本「本作にはあえて数字を見せるような演出も多いですが、なかでも“23”という数字が主人公・サムの部屋のルームナンバーだったのは気になりました。世界が23という数字に支配されていて、特に災害に関して重要とされている“23エニグマ”という都市伝説があるんです」
早瀬「例えば、地球の地軸が23度だったり、9.11アメリカ同時多発テロ事件なんかも2001年9月11日で数字を合計すると23になります。ちなみに『アンダー・ザ・シルバーレイク』が日本で公開された日付も10月13日で、合計すると23になるんです(笑)。もともと、23を分解して、2を3で割ると0.666…となり、キリスト教において不吉な数字とされている“666”という数字が浮かび上がるからだと言われています」
岸本「曲の逆再生のネタもありましたね。有名なところだと、レッド・ツェッペリンの『天国への階段』を逆再生すると『俺は悪魔に仕える』という言葉が聞こえるというのがあります」
早瀬「日本ではあまり馴染みのない文化ですが、海外では逆再生すると聞こえるメッセージを、遊びで曲に入れるというのが流行っていたらしいです」
岸本「それがアーティストが意図的に入れているものなのか、偶然の産物なのかということで盛り上がって、都市伝説化するということがあります。最近だと、バラク・オバマ元大統領の有名な『Yes, We Can!』という言葉を逆再生すると『Thank you Satan!』となる、と騒がれましたよね。劇中には任天堂のゲームキャラクターや任天堂パワーマガジンなどのアイテムが出てきますが、『ゼルダの伝説』の曲も、逆再生するとシリーズに関連する別の曲が仕込まれている…という噂がありました。もしかすると、監督は日本のゲーム文化にも詳しいのかもしれない」
早瀬「都市伝説はもちろん、様々な映画へのオマージュもたくさん入っていますし、青春映画としても本当におもしろいので、ぜひご覧ください」
※本作公開後には都市ボーイズによるネタバレありの『アンダー・ザ・シルバーレイク』徹底解説ニュースを掲載予定!そちらもお楽しみに。
取材・文/山崎伸子
若手放送作家の岸本誠と早瀬康広が気の向くままに都市伝説やオカルトの活動をしていくためのユニット。都内でのトークイベント出演やポッドキャスト『都市伝説 オカンとボクと、時々、イルミナティ』やインターネット放送局 K'zStationで『都市伝X』を配信中。
Twitterアカウント:@nishimako0928