デヴィッド・ロウリー監督が明かす、“死後の世界”を読み解くヒントとは?
昨年のサンダンス映画祭で大きな注目を集め、多くの映画ファンが日本公開を熱望した『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』がついに11月17日(土)から公開される。このたび本作を手掛けたデヴィッド・ロウリー監督に電話インタビューを行い、本作を読み解くための重要なヒントを聞いた。
『セインツ-約束の果て-』(13)や『ピートと秘密の友達』(15)で映画ファンの心をつかんだロウリー監督。彼にとって長編4作目となった本作は、死してなお愛する人を見守り続ける一人の“ゴースト”と、ある一軒の家を軸にした、神話的な時空の旅が描きだされていく。そんな本作の最大の特徴は、とにかくセリフの量が少なく、役者の表情や立ち居振る舞いだけで感情が表現されていることだ。
「言葉はすごく重要なものだと思っているが、この映画を作る上では、音を排除しても理解できるように作りたかったんだ」とロウリー監督は明かす。脚本の段階では多くのセリフが存在していたようだが、あえてそれらをそぎ落としたり、中盤に登場するヒスパニックの家族のスペイン語のセリフに字幕を付けなかったりしたという。しかし、対照的にパーティのシーンではしっかりとセリフを用意し、本作のテーマを表現したとも語り「この映画では、セリフを音楽やサウンドエフェクトのような役割として捉えてもらいたい」というこだわりを見せた。
また、セリフと同様に登場人物も少ない本作。主だった登場人物はケイシー・アフレック演じるCと、ルーニー・マーラ演じるMの2人だけ。しかも2人の役名には具体的な固有名詞が与えられておらず、互いの名前を呼びあうシーンはない。「セリフと同様に、特定の登場人物にフォーカスしたくなかったんだ」と、その理由を説明したロウリー監督。
「これはCとMの映画ではなく“ゴースト”の映画なんだ。台本上には名前があったが、あえてそれを消したんだ。この2人は、映画の中ではある種のシンボルのような位置付けだと捉えてもらえるはずだ」。セリフと登場人物の名前という大きな2つの要素を取り払うことで、よりストレートに主題を掲げ、正解を提示しない本作。きっと観る人それぞれが独自の解釈を持ち、本作の魅力に取り憑かれていくことだろう。
さらにロウリー監督は、本作を読み解くためのいくつかのヒントを教えてくれた。まず舞台となる家と“ゴースト”との関係性について、「この映画のゴーストは常に家にいて、家というものに囚われていると同時に、そこに住んでいたかつての自分にも囚われている。過去の生活、過去の思い出…そこに人が出入りしても、時が経っても、それは変わらない。呪縛が解けるのは、ゴースト自身が次のステップに進もうと決めた瞬間だけなんだ」。それに付随して、劇中に登場するもう一人の“ゴースト”との違いについても「別の葛藤を抱いているんだ」と明かす。
また、死後の世界を描きだした本作を司る死生観については「具体的な死生観を伝えたいという意味合いはなく、西洋の考え方も東洋的な価値観も取り入れて、自分が考える精神世界を表現した」と語り、「“ゴースト”となってからのCのパーソナリティは、時間と共に少しずつ消滅していく。それでもゴーストというのは普遍的なものであり、パーソナルなものであるから、物語は個人的なストーリーに回帰する」と、作品の構成についても言及。
最後に「いま僕らがいる空間や場所には、過去になにかが起きたことは間違いない。ただその場所に存在するというのがどういうことなのか。それを映画として描くことができたと思っている。僕はこのエンディングを、ハッピーエンドだと思っているよ」と、自身が思い描いた“死後の世界”を表現できたことに、強い自信をのぞかせた。
取材・文/久保田 和馬