『ばかもの』の内田有紀「予期せぬ事故が起きた後こそ、生き方が問われる」

インタビュー

『ばかもの』の内田有紀「予期せぬ事故が起きた後こそ、生き方が問われる」

芥川賞作家・絲山秋子の同名小説を映画化した『ばかもの』(12月18日公開)で、成宮寛貴と共に、10年に渡る運命的な愛の物語を体現した内田有紀を直撃。大ヒット作『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』(10)の勇ましい女刑事役とは打って変わり、本作では陰影のある大人の女を演じ切った彼女。そんな内田に、役に向き合う姿勢についてインタビューしてみた。

内田が演じたのは、ぶっきらぼうだけど率直な女・額子。8歳下で19歳のヒデ(成宮寛貴)と恋に落ちるが、彼女から一方的に別れを告げる。その後、ふたりはそれぞれに辛い人生経験を重ね、10年後に再会を果たす。まず、内田は絲山秋子の原作小説を読み、「額子の不器用なところに惹かれた」と言う。「人間は完璧じゃないし、いろんなことでつまずきながら生きていく。そんな額子の生命力に惹かれ、彼女の気持ちを誰よりもわかりたいと思いました」。

常に、役柄を好きになってから演じるという内田。「誰よりも自分の役を好きにならないと、という責任を感じます。たとえどんな悪人の役でも、人間の一番深いところが探せればと。もちろん、いろんな解釈があり、監督の演出によって変わるものもあるけど、そこに対しては戦うし、戦いたいと思えるような人とやる方が楽しい。要はどれだけ役と向き合えるかが大事だと思います。だから、毎回現場で金子(修介)監督と話しました」。

もともと内田は絲山秋子の原作の世界観が大好きだという。「絲山さんの男女を見る目線が面白い。きれいなものはきれいで当たり前だけど、思わず蓋をしたくなるようなみにくいもの、見せられないものも堂々と見せている点が良いんです」。

ヒデはアルコール中毒となり、額子もある出来事で人生が一転する。そんなふたりが変わり果てた姿で再会するシーンが感慨深い。額子の人生について内田はこう語る。「予期せぬアクシデントが起きた後、どうはい上がるかってところが人生の醍醐味なのかなと。もちろん、あえて堕ちる必要はないけど、そうなってしまった時に初めて生きるうえでのセンスの良さが問われるのかなと。軽やかに生きているように見えても、内情はとても傷ついていたり、大変だとは思います。それをいとも簡単に生きているって見せることで、器の大きさが問われるんでしょうね」。

ヒデと額子の10年に渡る究極の愛を、彼女はどうとらえたのか。「まだ、そこまでの恋について、私自身は考えたことがないです。究極の愛が何かという点も謎だし。私は過去よりも今が一番大事ですし。また、映画みたいなことこそ普通の生活の中にあるのではないかと思うんです。物語よりも現実の世界の方がもっとみにくかったり、素敵だったりするのではないかと。リアルな物語には叶わないけど、そういうものを映画を通して表現できれば良いなと、私は思います」。

常に、真摯に役と向き合ってきた内田有紀。女優としても女性としても深みが出てきた彼女だからこそ、『ばかもの』の額子の魅力を十二分に引き出せたのではないかと思う。生きることの大変さ、気高さ、美しさが映し出されたラブストーリーで、愛について思いを馳せてみてほしい。【Movie Walker/山崎伸子】

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